<前編のあらすじ>
ゴールデンウィークの長期休暇を控え、成美は3歳になる息子と夫とどこかへ遠出しようと考えていた。しかし、夫の宏昌は乗り気でない。旅行をするには息子はあまりに幼すぎる。まだ早い。宏昌はそう考えていた。
なるべく早く家族の思い出を作りたい成美、もう少し息子が成長してから旅行を楽しみたい宏昌。どちらの考えにも一理あり、二人の話し合いは平行線をたどる。
最終的に二人は互いをなじり始め、話し合いはいつしか言い合いになってしまった……。
前編:「ちゃんと考えておいてくれ」大型連休、幼い息子を連れ旅行に行きたい妻の思いを阻む夫の冷たい一言
夫の愚痴で盛り上がり
成美と宏昌の関係は、ぎくしゃくしたままゴールデンウィークに突入していった。
もちろんそんな成美たちはどこにも出かける予定はなかったものの、初日には友人の梨花が遊びに来てくれた。
お互いの近況を話していれば、話題は自然と成美が抱える宏昌への愚痴になった。
「まあ、そうね。それは難しいところね~」
「え? なんで?」
梨花は苦笑いしながら話す。
「ウチの姉さんにも子供がいるんだけど。女の子ね。陸人くらいの年齢のときに私たちも含めて家族旅行をしようとって話になったんだけど、もう大変で大変で」
「……そうだったんだ」
「新幹線で移動中もずっと泣いちゃってね。周りには気を遣うし、姉さんは機嫌悪くなるし、メチャクチャ雰囲気悪くて、正直貴重な休みが台無しになったなって思ってるよ。もちろん子供は何にも悪くないんだけどね。何か違うやり方とか近場で我慢するとかそういうのがあっても良かったのかなって思ってる」
梨花の言葉に成美は黙ってうなずく。
「それにさ、子供と一緒ならどこでも楽しいものじゃないの? だったら場所なんてどこでも良いじゃん。公園で遊ぶのだってきっと子供からしたら楽しいだろうしさ」
成美は宏昌が近所でも思い出作りはできると言った言葉を思い出していた。梨花に指摘されて、成美は申し訳ない気持ちになる。
「……私が間違ってたのかな」
「いやいや、これはウチの例であって陸人なら大丈夫だったかもしれないよ。こんなのは結果論だからさ」
するとそれまでテレビでアニメを見ていた陸人がおもむろに成美に近づき、抱きついてきた。成美が抱きしめ返すと楽しそうにけたけたと笑った。