新人賞、受賞パーティに参加

帯コメントを頼まれた縁もあって、菜々子は新人賞の受賞パーティーに訪れていた。四年前は夫が倒れた時期と重なっていたために出席できていなかったから、菜々子が訪れるのは5年ぶりだった。

「菜々ちゃん!」

知った顔の同業者や編集者に挨拶を済ませ、受賞者の太田さんにお祝いの言葉を伝えたあと、手持無沙汰になって会場の隅で立ち尽くしていた菜々子が、声のしたほうを振り返ると、真っ赤なドレスを着た泉田志津火が小走りで近寄ってきていた。

志津火は年こそ菜々子よりもひと回り下だったが、19歳でデビューしているために小説家としては大先輩で、デビューのときから仲良くしてくれる数少ない作家仲間のうちの1人だ。

「元気にしてた? 聞いたよ、受賞者の太田さん、菜々ちゃんの大ファンだって」

「ありがたいですよね。私なんてもう小説家って呼んでいいのかすら怪しいのに」

「どういうこと?」

眉を寄せた志津火を見て、しまったなと思った。だが真っ直ぐ向けられる志津火の視線から逃れる術はなく、受賞パーティー後にまんまと志津火につかまった菜々子は半ば強引に2次会へと連行され、貸し切られたバーのカウンター席の端っこで話をする羽目になっていた。

「そっか……書く意味を見失っちゃってるんだね。まあ、外野は色々言ってくるだろうけどさ、書かなくてもやってけるなら、無理はしなくていいんじゃないかな」

盛り合わせのナッツをひとつまみした志津火の言葉は意外で、菜々子は目を丸くする。書くことに魂を売ったような凄絶さによって、菜々子よりも遥かに長い時間、精力的に執筆を続けてきた志津火からそんな言葉が出るとは思わなかった。