「相続財産に手をつけることは…」覆らない家庭裁判所の判断

良子さんは慌てて美代子さんとともに家庭裁判所に相談する。どうにか今からでも相続放棄をできないか姉妹で画策したようだ。

しかし、担当者の答えはNOだった。「葬儀費用に必要でして……」とちょっとした出来心であると同時に、こうなるとは知らなかったと情に訴えかけるも、担当者の解答は変わらず。

繰り返しになるが銀行口座でお金の引き出しをした履歴が残ってしまっている以上、もうどうしようもないのだ。

その足で銀行にも向かい、相談をしてみるが取り付く島もなく、事態は好転しない。

「相続財産に手をつけることは、財産を受け入れたとみなされます。これは法律で決められており、一度単純承認をしたと判断されると、相続放棄の申し立ては認められません」

家庭裁判所の担当者が言った上記の言葉は今でも姉妹の心に強く残っているという。

住田姉妹からの相談

住田姉妹が家庭裁判所と銀行で相談を行った翌日、彼女らはそろって私の事務所へ相談に来た。何を隠そう、二人の父親の事業を私はサポートしていた。そのつながりから姉妹とは面識があり、過去に良子さんの金銭トラブルを内容証明郵便の送付で解決した実績もある。

姉妹はそれを思い出し、今回私を頼ってきたようだ。美代子さんが良子さんに代わって言う。

「妹がお金を引き出しちゃったこと、内容証明郵便を送って取り消しできませんか?」

残念だがそれはできない。内容証明自体には起こった出来事を取り消したり、書いたことが事実になったりするわけではない。

私は彼女らに伝える。

「もし、これが契約であれば取り消したりする内容で書いたり、事実無根であれば、その旨を伝える内容証明を作成できますが、これらに当てはまらず無理です……」

私はなるべく彼女たちが納得できるであろう言い回しを選んで慎重に答えた。

それからもいくつか質問が来て最終的に美代子さんから「ダメでもいいから銀行宛てになかったことにならないか送れないのか」と言われたが、無理だときっぱり断った。

そんなことをしても意味がないからだ。