相談に応えたのは
「栄子ちゃん、久しぶり」
ツーコール鳴ったあと、スマホ越しに明るい声が聞こえてくる。電話の相手は勇悟の3つ上の兄、将吾だった。
「お久しぶりです、お義兄さん」
将吾は現在は福島で飲食店を営んでいる。法曹一家に生まれながら、父の意向を汲まず自由に生きてきた人だった。高校卒業後に家を出て、職と住まいを転々としながら震災を期に福島に定住し、少しでも復興を盛り上げることができたらと居酒屋の経営を始めたのだという話を勇悟から聞いていた。
性格的にも勇悟と正反対で、歩んできた道のりも全く違う。だが、全く違うからこそなのか勇悟と将吾の兄弟関係はとても良好なもので、自分で決めた人生を自分の足で突き進んでいく兄を尊敬していると、勇悟は話していた。だからこそ将吾の言葉なら勇悟は聞いてくれるのではないかと思った。
「実は相談がありまして……」
栄子が優のことを説明すると、将吾は楽しそうに笑いだした。真剣な話だったので、テンションについていけずに戸惑っていると、将吾はごめんごめんと栄子に謝った。
「いかにもあいつらしいな。まあ勇悟の言ってることも間違いじゃないし、親心ってやつなんだろうな」
「そうなんです。優を思ってのことなのであまり無下にもできないんですけど、やっぱり私は優の気持ちを尊重したくて。でも、私じゃ彼を説得できるような気がしなくて、お義兄さんからもなんか言っていただけませんかね……」
「そうだな。よし、分かった。俺に任せろ。久しぶりにそっちに顔を出すよ」
「え、お店はいいんですか?」
「甥っ子の一大事だろ? 2、3日くらい、店はスタッフに任せておけば大丈夫」
「ありがとうございます」
栄子は電話越しだが何度も頭を下げた。
「それにさ、いい考えがあるんだよ」
含みのある言い方をした将吾はとても楽しそうだったが、栄子には彼の真意を計ることができなかった。
●勇吾と将吾の話し合いの場が持たれる。兄弟仲が良いとはいえ、考え方が180度異なる二人。話し合いは平行線をたどるかに思えたが、将吾からのとある申し出で流れは一変し……。後編:【甲子園に憧れ野球を始めたい息子と反対する父、叔父の一計で始まった父子による“一球勝負”の行方は】にて詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。