<前編のあらすじ>

20代の祐太は工事現場の日雇い労働で食いつなぐ日々を送っていた。大卒の祐太が重労働に明け暮れるのには理由があった。

大学を卒業後、念願かなってテレビ番組の制作会社で勤めることになった祐太だが、待っていたのは厳しい現実だった。

上司からの罵詈雑言に耐え、家に帰ることすらかなわない激務をこなす日々に祐太はついに心が折れてしまう。

勤めはじめて半年での退職だった。

雀の涙のような貯蓄はあっという間に尽きてしまい、祐太は日雇い労働を始めるようになったのである。

いつものように額に汗しながら重労働に明け暮れていると先輩の山城から声がかかる。聞けば“おいしい”仕事があるのだという。日給2万というその仕事の中身は、桜祭りに出店する、焼きそば屋の手伝いだった

前編:念願のテレビ番組制作会社に就職もパワハラで失意の退職 肉体労働で日銭を稼ぐフリーターが誘われた「割のいい仕事」

外国人とのいさかいが

「NO! The price is different!」

外国人客の声が響き、左隣の唐揚げ屋の前には小さな人だかりができていた。

「意味分かんねえっつてんだろ! うちはこの値段でやってんだって!」

店主は困惑しながらも強めの口調で説明しているが、外国人客は納得していない様子だった。まずい。祐太は焼きそばを混ぜる手を止め、山城さんをちらりと見た。

「こっちは大丈夫だ、行ってこい」

山城さんは鉄板から目を離さずに言った。祐太は小さく息をつき、意を決して揉めている2人の間に割って入った。

「えっと……エクスキューズミー? ワッツ、ハプン?」

外国人客が手元のメニューを指さした。

そこには「唐揚げ 1個200円」「唐揚げ 1パック800円」と書かれており、彼の手には唐揚げが入ったパックがある。
「あー……」

なんとなく状況が読めた。

「ディス……ワンピース、200エン。ワンパック、800エン」

祐太は必死に単語を並べながら、指を使って説明した。外国人客は「ワンピース?」と繰り返しながら、もう一度メニューを見た。そして、ようやく気づいたらしい。

「Oh……I was wrong!」

彼は急に恥ずかしそうに頭をかいた。どうやら1個200円と1パック800円の区別がついていなかったわけだ。

「ノープロブレム!」

祐太は笑いながら答えた。店主も祐太が説明すると「なーんだ、そういうことか!」とホッとした表情になった。

「お兄ちゃん、助かったよ。ほんと、すまねぇな!」

「いえ、俺も英語適当ですけど……」

「いやいや、お前すげぇよ。ありがとな!」

祐太は少し誇らしい気持ちになりながら、自分の屋台に戻ろうとした。だが次はまた右隣の射的屋から、女の子の泣きじゃくる声が聞こえてきた。