騒がしい一日も終わり

桜祭りの賑わいも、次第に落ち着いてきた。

祭りの終わりを知らせるアナウンスが流れ、客足もまばらになっていた。祐太たちも、売れ残った材料を片付け、鉄板を拭きながら、ようやく一息ついていた。

「いやぁ、今年もよく売れたな」

山城さんが満足そうに腕を組んで言った。

「お疲れさまでした……」

祐太は肩を回しながら、長い一日を振り返った。朝からずっと焼きそばを作り、隣の唐揚げ屋の揉め事を収め、迷子の女の子を探した。ただのバイトのつもりが、いつの間にか祭りの一部になっていたような気がする。

「おい、兄ちゃん」

声をかけられて顔を上げると、鉄板の向こうに唐揚げ屋の店主が立っていた。

「さっきは助かったな。あの外国人客、また来て『サンキュー!』って言ってたぞ」

「あ、そうなんですね」

「英語なんてさっぱりわからんからな。お前がいなかったら、まだ揉めてたかもしれねぇ。ほい、売れ残りだが良かったら食ってくれ」

祐太は差し出された唐揚げを受け取った。

真っ直ぐな感謝に思わず照れくさくなった祐太が苦笑いを浮かべていると、横から

「英語もできんのか。できる男はちげえな」と茶化すような気のいい声が割り込んでくる。見れば、射的屋の店主が咥えタバコをしながらこちらの屋台をのぞき込んでいた。

「迷子の件、ありがとな」

「いえ……俺は別に……」

「お前が探してくれたからあの子は母親と会えたんだろ?」

そう言って、射的屋の店主は冷えた缶ビールを取り出した。

「無事終わったことだし、一杯どうすか、皆さん」

「いいっすね」

「悪いな」

祐太はなんだかくすぐったい気持ちになっていた。怒られないように怯えながら働いていたときとも、使いつぶされるようにこき使われる日雇いとも違う充実感があった。祐太が知らないうちに、この祭りの人たちと少しずつ繋がっていたらしい。

「あ、ちょっと待ってくれ。忘れねえうちに渡しとかねえとな」

山城さんはそう言って祐太に封筒を手渡した。約束していた日給だったが、中身は話に聞いていた2万円どころではなかった。

「……多すぎませんか?」

「ちょっとしたボーナスだよ。まぁ、祭りに貢献した分ってやつだ」

山城さんはニヤリと笑う。左右の店主たちが「気が変わんねえうちにもらえるもんはもらっといたほうがいいぞ」と茶々を入れた。

「そんじゃ乾杯といきますか」

射的屋の店主が音頭を取り、4人は缶ビールのプルタブを押し込んだ。小気味のいい音が重なり、祭りの終わりを告げる。

「んじゃ、お疲れしたー!」

祐太たちは缶を打ち鳴らした。流し込んだビールはこれまでに飲んだどんな酒とも、比べ物にならないくらい美味かった。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。