残念がる息子
金属バットの鋭い打音が響き、歓声が上がる。熱のこもる実況が球場の臨場感を伝えている。
リビングのテレビの前には優が陣取っていて、朝から高校野球を見ていた。しかし昨日までと打って変わり、やや表情が曇っているのは、ひいきにしていた地元の高校が今日の第1試合で敗退してしまったからというだけではない。
勇悟の考えを伝えたからだ。優は「別にいい」と言っていたが、残念がっているのは見ていれば分かる。
もちろん勇悟の言うことも一理ある。スポーツの世界は厳しい。今ああやって甲子園で懸命にプレーしている高校生たちも、プロになって野球で食べていけるような人はほんのひと握りだ。それに仮にプロになったとしてもレギュラーになれるとは限らない。常に厳しい競争を勝ち抜かなければいけない世界だ。
だが、そんな将来を見据えた風の大人の論理で、優の野球をやりたいという熱意を押し込めてもいいものなのだろうか。プロにならなくても、甲子園に行けなくても、スポーツを通して学べるものはあるのではないだろうか。直接的に将来に結びつかなかったとしても、目標に向かって努力する気持ちや、野球を通してできた仲間は、人生を生きていく上で、かけがえのない財産になるのではないだろうか。
栄子はそんなことばかりを考えていたが、勇悟を説得できる気がしなかった。だから取り込んだ洗濯ものをしまいがてら2階へ上がったタイミングで、栄子はある人に相談を持ちかけることにした。