ちょっとだけ話をしてみようぜ

「もしかしたら話したら分かる人かもしれないじゃん。いや、きっとそんな感じの人だと思うんだよな。だから警察とか言う前に取り立ての人と話をしてみようぜ? な?」

「……ふざけないでよ」

「いやマジだって。頼むから、ちょっとだけ話をしてみようぜ?」

ヘラヘラと笑っている毅の顔をこれ以上見ていると怒りでどうにかなりそうだった。愛菜はため息をついた。

「お? 話をする気になってくれたか?」

「そんなわけないでしょ? そんなの毅が勝手にやってよ。私、出てくから」

「え? どういうこと?」

「実家に帰る。ほたるも連れていくからね」

愛菜は寝室に向かおうとしたが、毅は愛菜の前に回り込んで立ちはだかった。

「ちょっと待って……! 落ち着いて。玄関には取り立てがいるんだしさ」

「裏から出ればいいでしょ」

毅は泣きそうな顔をしていたが、同情の余地はなかった。

「嫌よ。家族を危険にさらすような人とは一緒にいられません」

「いや別にそんなことしてないって……」

「どこが? 現に取り立てが家に来てるじゃない」

愛菜は毅を押しのけて2階にあがっていく。大きめのボストンバッグに最低限の荷物を詰め、まだ目をこすりながら状況を理解していない愛菜を抱きかかえてて1階へ戻る。そのあいだじゅう、毅は考え直してくれと泣きそうな顔をしていたが、愛菜の気持ちは変わらなかった。

「愛菜、違うんだよ。ちょっとこれはそういうことじゃなくて……」

「借金がなくなって身ぎれいになったら話くらい聞いてあげる。じゃあね」

愛菜は吐き捨てるように言って裏口から家を出た。

物音を立てないように気をつけながら通りを抜け、住宅地に隠れるように建っているマイホームを振り返る。

抱きかかえたほたるも、肩に担いだボストンバッグも、愛菜には重かった。にじんだ視界を何度も指でこすりながら、愛菜はタクシーを拾うために通りへ向かった。

●さて、毅はというと、一人家で呆然としていた。愚かなことをしてしまったと一人、反省する毅だが、実は毅の思う愚かなこととは、借金をこさえたことではなかった……。後編:【「タイムマシンがあったらいいのに」夫が妻についたあわや一家崩壊レベルの“笑えないジョーク”と夫を戦慄させた妻の復讐】にて詳細をお届けする。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。