借金を作った理由
「……悪い」
「謝る前に説明をしないさいよ。どうして借金なんて作ったりしたのよ?」
毅とは高校時代から付き合って、結婚してもう10年になる。
昔からおちゃらけたところのある毅だが、根は真面目かつ誠実でギャンブルなどとは縁遠い人生を送っていた。だから毅の告白は、あまりに予想の斜め上をいくものだった。
「立川竜二っているだろ? 会社の後輩の……」
「何度かウチにご飯を食べに来たことある人よね」
「……そう、そいつ。実は竜二が借金を作っちゃったみたいで、俺、それの連帯保証人になったんだよ」
「な、何でそんな勝手なことを……⁉」
「俺だっていきなり頼まれてさ!……でもアイツがこれで金を借りられなかったらマジでやばいって泣きついてくるから。それでつい……」
愛菜は勝手なことをした毅に怒りを覚えていた。向こう見ずで子どもっぽいところがあるのは知っている。しかし何の相談もなしにここまでバカなことをする人だとは思っていなかった。
「この家のローンだって残ってるし、これからほたるの養育費だって色々かかるんだよ? 分かってる?」
「分かってるよ……でも困ってるみたいだったし、見捨てられなくて」
愛菜は毅に投げつけるようなため息をついた。お調子者もここまできてしまうと、さすがに度し難い。
「借金ってちなみにいくらなの?」
「……100万。だけど、利子とかあるだろうから、もっと膨らんでるかも」
頭が痛くなってきた。家の頭金で夫婦の貯金は使い果たしているし、ローンやほたるの養育費のための貯金で、全く余裕がないとは言わないまでも、家計は決して楽ではない。一体この男は何を考えているのだろうか。愛菜はこれみよがしに縮こまっている毅を睨んだ。
「だとしてもなんでその借金取りがこっちに来てるのよ? 借りたのは竜二くんなんでしょ?」
「それがさ、竜二のヤツと連絡が取れなくなって……」
「え……?」
「何かいきなり会社にも来なくなって、何回電話しても繋がらないし。それで俺のところに取り立てが来たんだと思うんだよ……」
「分かった。もう警察に連絡しよう。借金だか何だか知らないけど、こんな取り立て絶対に違法でしょ」
「待って待って。 警察はダメだって……⁉」
再びスマホを持った愛菜の腕を、毅はつかんでくる。どうしてこんなに必死に通報を嫌がっているのか、愛菜にはまるで理解できなかった。
「ふざけないでよ……! あんな人に家に来られたら困るのよ……! こっちは娘だっているんだからね……!」
「わ、分かった。それじゃあさ、ちょっとドアを開けてみないか?」
毅の提案に愛菜は呆れて言葉が出なかった。