次やったら出禁です

クレーンゲーム台を揺らせば落ちてくるのではないかと思いつき、智子が揺すっていると、20代前半くらいの若い店員から「ちょっと」声を掛けられる。

「機械揺らしたりすんのはちょっと。あんまやると出禁にしますよ」

「でも全然獲れないんです。もう1週間、65000円も使ったのに、さらりんが獲れないんです」

智子は必死で訴えたが、店員は「はぁ」とため息をつきながら頬をかく。店員と客であることを忘れているような失礼な態度にほんの一瞬苛立った智子だが、ふとネットで見た情報を思い出したのでどうでもよくなった。むしろ、どうして今まで忘れていたのかと、ぼーっとしていた自分にこそ腹が立った。

「あの、頼むと景品をずらしてくれるって、ネットで見たんですけど、お願いできますか?」

ネットの情報では取り出し口のかなり近くにまで景品を移動させてくれることもあると書いてあった。いくら下手な智子でも、そこまで手心を加えてもらえるなら獲れるかもしれない。

だが、店員の反応は芳しくなかった。

「あー、厳しっすね」

「え、でもずらしてくれるって見たんです」

「それ、うち?」

「え?」

「それ、うちのゲーセンの話って聞いてんすよ」

「あ、いえ、分からないです……」

「他所はどうか知らないすけど、うちはそういうのやってないんすよ。ま、とにかく次揺すったら出禁なんで」

店員は去っていった。

智子は内臓ごと魂を吐き出すようなため息をついてよろめき、さらりんがとらわれているゲーム台に寄りかかった。

「さらりん……」

泣きそうだった。

もしかすると、このまま〈さらりん(テレアポ地獄で心バキバキVer)〉を手に入れることができないのかもしれない。そう思うと、もう明日から生きていけそうになかった。

「おばさん、なんでそんな必死なの?」

背中越しにそんな不躾な声がかけられたのは、そんなときだった。

●「おばさん」そう呼ばれ少し面食らう智子。声の方に振り返ると、そこにいたのは長髪の中学生くらいの子どもだった。その子どもから智子は、あらゆる景品を取ることに精通した「神技のタツオ」なる、クレーンゲームの達人の存在を教えてもらう。智子は一縷の望みをかけ、タツオ探しに奔走するのだった。後編【「推しのぬいぐるみが取れない…」クレーンゲームに6万円を費やした女性を救った”クレーンゲームの達人”その意外な正体】にて詳細をお届けする。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。