<前編のあらすじ>

娘と見たクラシックバレエの舞台に感激した里代子は自らもバレエを習いたいと思うようになる。

しかし、大きな壁があった。里代子はすでに50代だった。そんな里代子の挑戦を堅物な夫・祐樹は鼻で笑う。それでもめげない里代子はパートに出て費用を工面し、バレエ教室に通うことを決意する。

前編:「誰が見たいんだ年寄りのバレエなんて」夫に冷たく突き放されても、50代女性がバレエを始める決意をしたワケ

レッスンが始まる瞬間は毎回、鏡越しに映る自分の姿に緊張が走る。まだぎこちない動きで振り付けを覚えようとしている里代子の姿は、他の生徒たちと比べてどうしても見劣りするからだ。それでも里代子は、負けたくないという気持ちでいっぱいだった。

「次回のレッスンから発表会の練習が始まります」

このバレエ教室を担当している鏑木花先生がそう告げたとき、スタジオの空気が少し変わった。

花先生のクラスでは、発表会の参加は任意だ。参加してみたい気持ちはあるものの、自分にそんなことができるのだろうか。そんな不安が頭をよぎったが、花先生の言葉が里代子を後押ししてくれた。

「発表会に出ることは、自分の努力の成果を形にする大切な機会です。里代子さんにも役を用意していますので、ぜひ挑戦してみてくださいね」

里代子は思わず先生を見つめた。

「はい、私やってみたいです」

驚きと喜びが入り混じる中で、そんな言葉が自然に口をついて出ていた。