内側から自身があふれてきて
翌週から発表会に向けた練習が始まった。振り付けはこれまでのレッスンとは比べ物にならないほど複雑だった。ステップを踏むたびに何度も間違え、他の生徒たちとタイミングがずれてしまう。
「大丈夫ですよ。少しずつ慣れていきますからね」
花先生のその一言が、里代子を何度も救った。
練習の合間に、鏡越しにふと自分の姿を見ると、初めてレッスンを受けた日の里代子とは立ち姿が違うことに気づいた。背筋がしゃんと伸び、内側から自信があふれているようだ。小さな成長を感じられることが、どれだけ自信につながるのかをこの年齢になって初めて知った。
とはいえ里代子には、周りの生徒さんよりも遅れている自覚がある。だから家にいるときも、家事の合間を縫って与えてもらった役の振付のイメージトレーニングに勤しんだ。
夕食の片付けを終えてリビングでお手本の動画を見ていると、祐樹が不意に声をかけてきた。
「ずいぶん熱心にやってるんだな」
その言葉が彼から出てくるとは思わず、里代子は少し驚いた。
「うん、発表会の練習があるから」
「発表会か……本当にやるのか?」
彼の言葉には少し皮肉が混じっているように感じたが、それでも里代子はうなずいた。
「やるわ。ずっと練習してきたし、舞台に立ってみたいから」
祐樹は何も言わずに黙り込み、そのまま視線をテレビに戻した。
「やめとけ」とも「頑張れよ」とも言わない夫に物足りなさを感じたものの、里代子の中に芽生えた決意が揺らぐことはなかった。