<前編のあらすじ>

大学卒業以来20年ぶりにそろった、光輝、力也、悟の3人組。ワンゲル同好会の同窓生でもある3人は、久方ぶりに登山に挑戦する。やってきたのは雪山だ。白銀の世界に胸を躍らせる3人だが、次第に雲行きが怪しくなる。

四十を越えでもいまだにバイト暮らしの悟を大手SIer勤めの力也がなじり始めたからだ。そして、三人の間に流れる重苦しい空気に呼応するかのように、雪山が次第に牙をむき始める。山頂に到着し絶景を楽しめるかと思いきや、一面吹きすさぶ雪で視界は不明瞭だ。ひと悶着あったものの下山を決める3人。一面雪で周りには背の高い木が立つばかり。代り映えのしない道を歩む中で、悟が気づく。

「まずい、迷ったかもしれない」

前編:「ニートの分際で初心者扱いするな」極寒の雪山で20年ぶりにそろった3人組の友情に入った亀裂

痛ぇ……

「はぁ⁉ お前、ふざけんなよ?  迷ったなんてシャレになんねえだろ!」

道を見失ったことを告げると、力也はやはり悟のことを怒鳴りつけた。すでに確認したスマホは吹雪のせいか電波が悪く、光輝たちは八方ふさがりになっていた。

「悟だけを責めるなって。それより、どうするか考えようぜ」

「もういい、こんなところで立ち止まってられるか! 凍死しちまうよ」

力也はそのまま勝手に進み出してしまう。はぐれるのはまずいと、2人が力也を追いかけようとしたその瞬間だった。

力也の身体が不自然に傾いたかと思えば、一瞬にして視界から消えた。雪が舞い上がり、遥か下方にあった木が大きく揺れた。

「力也!」と叫び、地面を駆け下りたのは悟だった。斜面を滑るようにして力也のもとへ向かう。

力也は転倒して滑り落ち、木に激突して倒れていた。

光輝もようやく事態を察して、悟の後を追いかけて斜面を下る。幸い悟が声をかけると力也はすぐに身体を起こしたが、立ち上がろうとした瞬間、苦鳴を上げた。

「転んだときにひねったのかもしれない」

悟が軽く触れると、力也は表情を歪める。歯を食いしばり、喉の奥からうめき声を漏らす。

「痛ぇ……痛ぇ……」

「動かないほうがいい」

「動かないほうがいいって、こんなところでどうすんだよ!」

光輝は思わず口を挟んだ。風は今も冷たく、こうしているあいだにも光輝たちの体力を奪っている。

「ふざっけんなよ!」

力也も苛立ちを抑えきれずに雪を叩く。何でお前がキレるんだと、光輝は力也の胸座を掴んだ。

「だいたいお前のせいだろ? 素人のくせに調子乗って、勝手に怪我して。とんだ迷惑なんだよ」

「あ? お前はそうやっていい子ちゃん面してるけどな。どっちつかずでヒヨってるだけじゃねえか。そういうの、見てると腹が立つんだよ」

「何の話だよ。今関係ねえだろ」

「2人ともやめろって!」

鋭い怒鳴り声が銀世界に響き渡り、光輝と力也は反射的に言葉をのんだ。