吹雪がやむまで我慢しよう

「とりあえず落ち着こう。この状況で動くのは危ない。自分たちが今どのあたりにいるのかも分からないし、力也の怪我は最悪折れてるかもしれない。とりあえず、ここで雪洞を作って吹雪が収まるのを待とう。視界が晴れれば見通しもよくなって、今いる場所が分かるかもしれない」

「……もしこのまま吹雪が収まらなかったら?」

「大丈夫。どんな吹雪もいつかは収まる」

いつかはって無責任な、と光輝は言いかけたが寸前のところで呑み込んだ。きっと悟は光輝たちを少しでも安心させようとして、大丈夫だと言ったのだろう。今はたとえ無責任でも不確かでも、悟の言葉にすがるほかにない気がした。

悟がバックパックから取り出した折りたたみ式のシャベルを受け取り、光輝は雪を掘っていく。悟は光輝が掘った雪の周辺に壁をつくり、雪洞のかたちを作っていく。

3人が入れる広さの雪洞をつくるのは骨が折れたが、無我夢中で身体を動かしていると余計なことを考えずに済んだ。

悟は完成した雪洞の入口にツェルトと呼ばれるナイロン製の布を張り、風が入ってくるのを防いだ。スマホのライトをつけると白い雪の壁に反射して、中は思いのほか明るく、風がない分だけ悟が言っていた通り暖かいような気もする。中に寝かせた力也にはエマージェンシーシートを巻き、動けないことで身体の熱が逃げていくのを少しでも防いでいる。

「なあ、いつまでこんなことをしてないといけないんだよ?」

「吹雪が止むまでは我慢しよう」

力也の愚痴のような質問にも、悟は落ち着いて答えている。光輝がツェルトの向こうをのぞくと、日はすっかり暮れていて、相変わらず吹雪は続いていた。もし悟を無視して闇雲に歩いていればどうなっていたかとゾッとした。

「なあ、悟。俺たちこれからどうなるんだ?」

「少なくとも明日には救助隊が俺たちを見つけてくれるはずだよ」

「……何でそんな言い切れるんだ?」

悟はポケットからバッヂのような薄いものを取り出す。

「これがあれば、向こうに俺たちの位置は伝わっている。だからこのまま雪洞にいても見つけてくれるんだよ。雪洞でキャンプをするなんて人もいるくらいだから心配することはない。俺たちは絶対に助かる。ほら、食えよ」

そう言って悟はバックパックから栄養バーと温かいコーヒーを取り出し、光輝と力也に分けてくれた。

「……悪かったな、2人とも。迷惑かけて」

空腹が満たされ、温かい飲み物を飲んで気持ちが落ち着いたのか、ふいに力也がこぼした。

「怪我は仕方ない」

「いやそれだけじゃなくて、悟のこと馬鹿にするような発言したこともだよ。悟がいなきゃ、とっくに凍死してた」

「別にいいよ。俺なんかより、お前や光輝のほうが立派にやってんのは確かなんだし」

「会社でそこそこやってたって、自然の前じゃ無力。みんな平等だ。でも、なめてかかった力也と俺は最悪。本当に助けられたよ」

「やめろって。友達だろ。助けるのは当たり前だ。それにもし死なれたりしたら、山登りが楽しくなくなる」

「間違いないな」

光輝は笑った。「なんだよそれ」と力也が笑い、悟も笑った。