<前編のあらすじ>

大手出版社に勤める益実は両親と絶縁している。母・善子の再婚相手となった義理の父・健一郎の存在が原因だった。

再婚当初は益実かわいがる健一郎だったが、実の息子の優が生まれてからは益実をないがしろにしだした。

成長し、益実は大学進学を望むようになる。しかし健一郎はかたくなに認めようとしない。ついには暴力を使ってまで言うことを利かせようとした。そんな健一郎を善子はとがめることもなく、黙ってみているばかりだった。

そうして高校を卒業後、家を出た益実は実家とは距離を置き、一人仕事に邁進する。益実が家を出てから30年近くがたち、健一郎は病で命を落とし、善子もガンに倒れる。

見舞いにも顔を出さず、世話は弟の優にまかせていた益実のもとに、とうとう母の訃報が届く。「両親はすでに死んだもの」そう思い、葬式にも顔を出さなかった益実だが、しばらくして、優から呼び出された益実を待っていた優が取り出したのは、善子が益実に残した現金300万円と、白い封筒に入った益実への謝罪の手紙だった。

前編:義理の弟をかわいがり、自分は大学にも行かせてもらえず…両親と絶縁した女性に、亡くなった母から届いた白い封筒の中身

母の思いとは

手紙の内容は要約すれば、益実への謝罪だった。

善子は家の中で益実を孤立させてしまったことをとても後悔していた。実際、益実にも優しくしてくれと頼んだこともあったらしい。しかし善子が頼めば頼むほど、健一郎は益実を冷遇した。だからいつしか善子は何も言えなくなってしまったのだという。

善子は何度も益実を連れて家を出ようと考えたらしい。しかし女手一つで益実を育てることの大変さを考えると、その選択をすることができなかったらしく、善子は何度も自分の弱さと無力さを手紙のなかで謝っていた。

もちろん、2度目の結婚には失敗できないという体裁を気にする気持ちもあったのだろう。だが、善子が健一郎との生活を続けたのには、益実と優を育て上げることへの責任感があったようだった。

ちなみに、通帳のお金は益実が家を出た直後から始めた内職で貯めたものらしい。
もしも益実がお金に困ったとき、健一郎は絶対に手を差し伸べないだろうから、そのときのために自分が助けられるよう準備しておかなければいけないと、健一郎には内緒で貯めていたのだという。

この貯金は病気で体が思うように動かなくなるまで続いていた。きっと益実を進学させられなかったことに、善子なりに負い目を感じていたのだろう。

益実は、こつこつと毎月決まった日に決まった額が振り込まれている通帳に視線を落としていた。

もし自分が仕事が上手くいかず、プライドを捨てて実家を頼っていたら善子の気持ちに気付くことができていただろう。

そうしたら親子関係はもっと近くなっていて、きっと善子が亡くなるとき病院に自分の姿もあったのだと思う。

しかし、そうはならなかった。退路を断った益実は寝る間を惜しんで仕事をした。とにかく経験と人脈を掴み、ステップアップのため転職を繰り返し、今では国内でも知らない人はいないような大手出版社で仕事をしている。