健一の後ろ姿
翌日のイベント当日。
人々でにぎわう地区センターに、健一の姿はなかった。
「さすがに当日は来なかったな」
職員たちは健一の不在にホッと胸をなでおろす。だが、有海は彼がこのイベントを遠くから見守っているような気がしてならなかった。
イベントはあわただしく行程をこなし、あっという間に時間は過ぎていった。センターの前には親子連れを中心に多くの人があつまり、イルミネーションの点灯を今か今かと待ち構えている。
「……3、2、1、メリークリスマス!!」
子どもたちのカウントダウンに合わせて、イルミネーションが点灯すると、センターの前は一瞬で光に包まれた。
わっと歓声が上がり、あちこちで笑顔がはじけた。
その後、有志で集まった地元の小学生や町内会メンバーによるミニコンサートが行われ、会場は大盛り上がりとなった。
クリスマスイベントは、有海たちの想定をはるかに超えて、大成功に終わったのだった。
その夜、有海が片付けを終えて帰ろうとしたとき、道路を挟んだ向かいの歩道から、ひっそりとセンターの方を見つめる健一の姿を発見した。
やはり彼は、このイルミネーションを見に来たのだろう。
有海が言った通り、点灯式が安全に執り行われるかを確認するために。あるいは、子どもたちがイベントを楽しむ姿を見届けるために。
しばらくすると、彼は誰にともなく静かにうなずき、センターに背を向けて歩き出した。
その表情は切なくも穏やかで、どこかつき物が落ちたようにも感じられた。
「メリークリスマス……塚田さん」
イルミネーションに照らされながら、夜道を進んでいく健一の後ろ姿に向かって、有海は小さくつぶやいた。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。