<前編のあらすじ>

地区センター職員の有海(46歳)は、クリスマスのイベントに向けて準備をしていた。イベントを翌週に控えた矢先、センターの入り口でその地域に住む健一(75歳)が叫んでいるとの連絡を受ける。

聞くところによると、俺たちの税金をイルミネーションに使うのが許せない、という話だった。健一の言う通り、イルミネーションの設置や点灯にかかる電気代などは税金から捻出されている。だが健一は、地域では迷惑クレーマー扱いをされていて、たびたび問題を起こす高齢者だったこともあり、無視するよう上司に言われ静観していた。

それからも健一は毎日のように地区センターを訪れてクレームを叫び続けた。やがてイルミネーションを無理やり引きはがすという強行にまで及んだ。

●前編:「この税金泥棒どもめ!」地域のイルミネーションに猛反対する高齢男性の「とりかえしのつかない過去」とは?

健一の悲しい過去

翌日、たまたま休みだった有海は、地区の図書館で古い新聞を読みあさっていた。

もしセンター長が言った通りなら、何か健一が変わってしまうきっかけになった出来事があるはずだと思った。塚田健一の名前と彼に関連しそうな情報を探すうち、有海の目は1つの記事にくぎ付けになった。

今から41年前の冬。健一の自宅で起きた火災の記録だった。  

出火原因は、クリスマスツリーに飾り付けられた家庭用のイルミネーション。それがショートして火が出たのだという。

記事には、健一がその夜、工場の夜勤に出掛けていたこと、そして彼の1人息子――当時5歳の男の子が火災で命を落としたことが記されていた。

その悲劇が健一の人生を大きく変えたのだろう。

もし生きていれば、今年46歳になるはずだった男の子。くしくも有海と同級生だった。

「そういうことだったのね……」  

有海は胸に込み上げる複雑な感情を抱えながら、そっと記事を閉じた。