健一の独白

警察を呼ぶという脅しが利いたのか、クリスマスイベント前日まで健一がセンターに姿を見せることはなかったが、準備のために職員たちが遅くまでセンターに残っている中、久しぶりに健一が現れた。

イルミネーションの飾りをにらみ付けているが、真実を知った有海には、どこか悲しげな目をしているように見えた。

「あっ! あのじいさん、また来てる……!」

職員の1人が健一の姿を見るなり、携帯電話を取り出して警察を呼ぼうとした。

「ちょっと待ってください」

有海はその職員を制し、健一のもとへと駆け寄った。

「あの、塚田さん、少しお話ししませんか?」

「話だと……?」

健一はけげんそうに顔をしかめたが、有海の真剣な表情を見て、ゆっくりとうなずいた。

健一を応接室へと通し、温かいお茶を出す。健一の手は寒さであかぎれが起きていて痛々しい。

「塚田さん、すいません。41年前の火災のこと調べてしまいました。……とてもつらい経験をされたんですね」

その瞬間、健一の表情が一気にこわばった。有海を鋭くにらみ付ける目は、どこか悲しげに揺れていた。

「……何が言いたいんだ。俺の過去を持ち出して、同情でもするつもりか?」

「そうじゃありません。ただ、塚田さんがどうしてイルミネーションに怒りを感じるのか、ようやく分かった気がして……これまで、無理解な対応をしてしまったことを謝りたいんです」

そう言って頭を下げると、健一は眉を寄せたまま黙り込んだ。  彼がじっと耳を傾けてくれているのを確認すると、有海は話を続けた。

「明日のイルミネーションイベントでは、火災事故が起きないように、安全対策をしっかり講じています。使っている電飾は全て防火仕様のもので、設置や配線も専門業者にお願いしました。夜間も防犯カメラで監視しています」

健一の表情がかすかに動き、期待と疑いが入り交じった目で有海の顔をじっと見つめた。有海は、彼の心に訴えかけるように言葉を重ねた。

「もちろん、私には塚田さんが抱えている苦しみを、完全に理解することはできないと思います。でも……それでも私たちは、このイルミネーションで地域の人たちに笑顔を届けたいんです。塚田さんの心を傷つけたくてやっているわけではないことを、分かっていただけたらうれしいです」

健一はしばらく何も言わなかった。沈黙が応接室に広がる中、有海はじっと彼の反応を待った。  やがて健一は独り言のようにぽつりぽつりと語った。

「女房が死んで……めったに笑わなくなった息子が……あの電飾を見て喜んでたんだ……だから……だから俺は……ツリーの明かりをつけたまま仕事に……」

そこから先は言葉にならなかった。この40年余り、幾度となく繰り返されたであろう後悔がそこにあった。肩を震わせながらうつむく健一を、有海はそっと見守ることしかできなかった。