初めて妻のために作った料理
次の日の朝、珍しく寝過ごした百合子がリビングに降りていくと、キッチンで悪戦苦闘する春樹の姿が目に入った。
どうやらオムレツを作ろうとしているらしく、慣れない手つきでフライパンを振っていた。
「おはよう」
「お、おはよう! 百合子は座っててくれ! 今日は俺が朝食を作るから……!」
そう言ったそばから卵がフライパンの端にひっくり返り、IHコンロの上に落ちて崩れた。
「うわ! 百合子……! これ、どうすりゃいいんだ!」
「知らないわよ、自分でやるって言ったんでしょう?」
百合子はコーヒーメーカーのスイッチを入れながら、のんびりと答えた。
「オムレツなら簡単にできると思ったんだが、なかなかうまくいかないもん……熱っ!」
「ふふっ……そりゃ、熱いに決まってるでしょうよ」
慌てふためく春樹を見守る百合子の顔には、抑えきれない笑みが浮かんでいた。
それからしばらくして原型を失ってスクランブルエッグになった自称オムレツと、フリーズドライの即席スープだけのシンプルな朝食が完成した。
「ん……なんだこれ、しょっぱい」
ひと口食べて顔を上げると、慌てて水を飲む春樹の姿が目に入った。
「ふふっ……何よ、その顔……ちょっと笑わせないで」
春樹が初めて自分のために作ってくれた料理を味わいながら、百合子はいつまでも笑いが止まらなかった。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。