机の上で見つけたもの

その日、昌子はいつものように家の掃除をしていた。

広々としたリビングの隅に置かれた書類の山を整理していると、1枚の紙がひらりと床に落ちた。拾い上げてみると、それは良太の学校からの授業参観の案内で、日付を見ると明日だった。

心の中で小さくため息をついた昌子は、その案内を見つめた。おそらく、良太は来てほしくないのだろう。そんなことを言わなくても、態度で十分に伝わってきた。だが、同時に母親としてこの機会を見逃すべきではないのではないかという思いも芽生えた。

悩んだ末、昌子は無理を言ってパートの仕事を休み、意を決して良太の授業参観へと向かった。

教室の扉を開けると、すでに何人かの保護者が集まっていた。授業が始まろうとする中、昌子は目立たないように後ろの席に腰掛けた。良太は、まだ昌子の姿に気づいていない。

しかし、授業が始まりしばらくして、ふと良太が後ろを振り向いた。

視線が交差した瞬間、良太は驚いたように目を見開いたあと、思いっきり眉をひそめた。「なぜ来たんだ」とでも言いたげな表情に、昌子は胸が少し痛んだが、それでも彼を見守ることを決めた。

良太は前を向き直し、授業に集中しようとしていたが、その態度にはどこかいら立ちが感じられた。きっと恥ずかしいのだろう。

昌子は、できるだけ気配を消すようにして、静かに授業を見守っていたが、ふとあることに気が付いた。

それは良太の机の上に置かれたアップリケ付きのペンケース。

あの日、破れたペンケースを捨てようとしていた良太に対して、昌子がアップリケで修繕を施したものだ。

そのペンケースを見た瞬間、昌子は胸が温かくなるのを感じた。

良太は今でも昌子に対して反発するような態度を取り続けているが、そのペンケースが机の上にあるということが、彼の心の奥底で何かが変わり始めている証拠のように思えたのだ。

授業が終わる前に、昌子はそっと教室を後にした。家に帰ってきた良太は勝手に授業参観に来たことを怒るだろう。

そしたら一応は謝って、そしてたとえ嫌がられても良太の頭をなでてやろうと思った。

複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。