夫婦の貯金の大半は借金返済に…

それから数か月後、創志は結子との離婚を決意した。

結婚生活は始まったばかりだが、これ以上結子や義両親と歩み寄ることはできなかった。

結子は大いに戸惑い、難色を示したが、創志の意志が固いことを知って、最終的には離婚を受け入れた。

義家族との縁を切る代わりに、2人でためた貯金については、その大半を弁当屋の借金返済に充てることにした。

一旦は跡継ぎを引き受けた身として、創志なりのけじめだった。

こうして結子との短い結婚生活に終止符を打った創志は、再び東京へと戻った。

せっかく取得した調理師免許を活用することも考えたが、結局はかつての職場や知人のつてでエンジニアとして再就職を果たし、新たな生活をスタートさせた。

義実家での暮らしとは違い、今は単身者用のマンションで気ままな独身生活を送っている。

弁当屋での経験は何もかもが新鮮で、全てが無駄だったわけではないが、今はもう過去のこと。身軽な生活の中で離婚の傷跡が癒えるのに、そう長くはかからなかった。

「俺も今度、料理サークルに参加してみようかな」

最近、趣味をきっかけに結婚が決まったという友人に祝福のメッセージを送信した創志は、晩酌がてら自分で作ったおつまみに、舌鼓を打った。

複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。