父親として、応援してあげるべき
しかし、直美の反応は違った。
「あなた、それくらい出してやってもいいんじゃないの? 昌ちゃん、やっとやりたいことが見つかって、これからやり直すつもりなのよ。父親として、応援してあげるべきじゃない?」
直美の言葉は、憲二の胸に小さな痛みを与えた。長年仕事にかまけて昌一の育児を任せきりにしていた負い目が刺激された。
「お願い、あなた……せっかく昌ちゃんが頼ってくれてるんだから……」
直美の気持ちを無視することはできなかった。
結局、直美に懇願された憲二は、昌一が専門学校へ通うための学費と教材費として215万円を渋々工面した。
受け取った退職金の活用を含めて、今も資産運用は続けている。もちろん200万は安くないが、老後の生活水準を維持するのに大きな影響が出る金額ではないだろう。
子供のころに父親らしいことをしてやれなかった罪滅ぼしだと思って、憲二は昌一の新たな夢の行方を見守ることにしたのだった。
●息子のために学費を工面した憲二だが、まもなく息子と妻の「信じられない事実」が露呈することになる――。後編【「ともに暮らしてきた家族とは思えない」FIREをした男性が、妻と息子と絶縁するに至った「あり得ない裏切り」】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。