ピンチヒッター・俊太郎

俊太郎が帰った5時間後、ついに準決勝の試合がスタートした。

毅は病室のテレビで佳枝と一緒に観戦をする。相手チームは投手力が高く、なかなか得点を奪えずにいた。そして7回の裏、ツーアウトながらランナー2、3塁のチャンスに代打が送られる。

左バッターボックスに立ったのは代打で打席に送られた俊太郎。現在、チームは1点差で負けている。しかし一打逆転の場面だった。

「ああ、しゅん君、大丈夫かしら……。頑張って」

佳枝は手に持ったハンカチを握り込んで祈っている。サイドスローの相手投手が投げた初球は空振り。俊太郎の表情に気負いはなく、スイングにも迷いはない。

「大丈夫だ」

けがから明けて2週間ぶりに立った実戦の舞台。その初球から力強いスイングができているならば問題ないと、毅は思った。

2球目は緩い変化球が外れてボール。3球目は外角のストレートを逆らわずに左方向へ打ち返すが、打球は切れてファウル。ツーストライクと追い込まれた。

「大丈夫だ。必ず打てる」

相手ピッチャーが4球目を投じた。俊太郎はバットを鋭く振り抜いた。力みの取れた素晴らしいスイングで打ち返された球は、浅い放物線を描いて左中間を真っ二つに割って転がっていく。ランナーが2人が返り、チームは逆転。セコンドベース上で俊太郎は高々と手を突き上げた。その光景を見て、毅は目頭が熱くなった。

8回からは俊太郎がショートの守備につき、3度守備機会があったがどれも全てそつなく裁き、チームは決勝進出を決めた。

じいちゃんのおかげ

試合が終わった日の夜、俊太郎から電話がかかってくる。

『ありがとう、じいちゃんのおかげだよ』

顔が見えずとも、充実した表情をしていることが手に取るように分かる。

「いいや、お前が毎日練習をし続けた成果だ。俺は何もしてないよ」

『決勝さ、俺、スタメンで出られそうなんだ』

「必ず応援に行く。お前の勇姿を見に行くからな」

毅は力強くうなずいた。

複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。