<前編のあらすじ>
毅(68歳)の楽しみは、かわいがっている孫・俊太郎(18歳)の高校野球だ。自身も球児として甲子園を目指していた毅は、俊太郎が小さいときから野球を教え、俊太郎もそれに答えるように上達していった。
そして毅の母校に入学した俊太郎は、最後の夏に挑む。しかし夏の地区大会前の紅白戦で、俊太郎は突き指をしてしまう。レギュラー当確だっただけに俊太郎は気落ちしていたが、そんな俊太郎に毅は祖父としてOBとして激励の言葉をかける。
地区大会のベンチ入りは果たしたものの、俊太郎の出番はない。それでも毅は連日球場へ足を運び、今年こそはと悲願に向けて勝ち進む後輩たちを応援していた。しかし準々決勝に勝利した日の帰り道、毅は熱中症で倒れて病院に搬送されてしまう。
●前編:グラウンドに響く鈍い激突音…高校球児を襲った“想定外のアクシデント”と祖父の「異変」
応援に行かれなくなってしまった
毅が気付くと病院のベッドで寝ていた。
「良かったわ。急にベンチに座って倒れ込むから驚いちゃって」
「ここは病院か?」
「ええ、救急車を呼んでね。ちょっと重たい熱中症だったみたい。だから2,3日は入院をしておかないとダメですって」
入院という言葉を聞き、毅は衝撃を受ける。しかし体を動かせるような状態ではなかった。
「……じゃあ、試合は見られないな」
明日、俊太郎たちの準決勝がある。対戦相手は昨年の優勝校。間違いなく大一番だ。
「しょうがないわよ。個室を借りたから、そこのテレビで応援しましょう」
「ああ、そうだな」
毅はそう言って目を閉じた。家族そろって何て不運なんだ。
俊太郎が生まれて、毅が野球を教えた。みるみる上達をしていく孫を本当に誇らしく思っていた。そんな俊太郎が自分の母校の野球部に入ったことは、これ以上ない喜びだった。だからこそ、俊太郎がチームのユニホームを着て、甲子園で校歌を歌ってくれることを心から願っていた。そのためなら、どれだけでも応援する気持ちだった。
だが、地区大会の寸前で俊太郎はけがをした。そして大事な一戦を前に自分は熱中症で入院してしまった……。もし神がいるのなら、どうしてこんな仕打ちをするのか問いただしたい気持ちだった。