巧さんと友美恵さんのケースではどうなるのか

先ほど確認した財産分与の概要を巧さんと友美恵さんのケースについて考えていこう。すると、ぱっと見、友美恵さんは財産分与によって巧さんの4000万円の貯金のうち半分に該当する2000万円を財産分与によって得られることになると考えられそうだ。

友美恵さんは婚姻期間中家事を引き受け、親せき付き合いも完璧にこなし、巧さんを対外的にも対内的にも支えてきたからだ。となれば、友美恵さんの言う「お義父さんの介護やお葬式、私はあなたの身内としていろいろな手伝いをしてきた」という主張にも正当性が生まれてくる。相続によって得られた4000万円の貯金には友美恵さんの功績が一定以上は含まれていると考えられそうだ。

だが、だからといって相続によって得た財産までもが財産分与の対象となるわけではない。財産分与の対象となるのは、あくまでも「共有財産」だ。共有財産とは、夫婦が共同で所有する財産、婚姻中に夫婦が協力して形成した財産である。

一方で、相続によって得た財産は「特有財産」となり財産分与の対象とならない。特有財産とはいわば夫婦関係とは無関係の個人的な属性から得た財産を指す。相続によって得た財産は夫婦関係とは関係がない。

たしかに現実としては友美恵さんの助力が一切影響していないとも言い切れない。しかし、仮に友美恵さんの存在がなくとも、相続については自身の家族関係・親族関係といういわば個人的な身分に基づいて生じる。つまり、相続によって得た財産は共有財産ではなく特有財産となる。

このように考えると、結論として友美恵さんは4000万円の相続財産については半分とは言わず、“財産分与を一切受けられない”ことになる。