原因は両親の時代錯誤な価値観

遺留分を侵害する遺言書が作られた背景には、2人の父親である司さんが亡くなった当時の遺言書も関係している。今回同様、「長男の孝に全額相続させる」という内容だったのだ。その当時、誰もが長男の孝さんが遺産を継ぐものだと思い込んでいた。

広子さんとしても、遺言書をきちんと残しておけば、友里さんも「家のことだから」と理解してくれると考えていたようだ。

遺言書を作る際、私は広子さんに「友里さんが遺留分を主張すれば相続争いが起きる可能性がありますよ」と事前に伝えていた。しかし、広子さんは「夫の時はきちんと理解をしてくれていました。あの子は私の時もしっかり理解してくれるはずです」と、娘の友里さんが家の伝統を、そして自分たちの気持ちを分かってくれるものだと信じ切っていたのだ。

この点について友里さん本人に対して事前に相談をしたわけでもなければ、意思確認をしたわけでもない。トラブルが起こり得ることを認識しつつも「大丈夫だろう」という甘い考えで遺言書を作ったのだ。

私は何度も「人の気持ちは常に変わりゆくものだ」「相続争いは想定外の出来事からいとも簡単に起こり得る」「極力トラブルが起こらないようにあらゆることを想定しておくべき」と、伝えた。だが、広子さんの意志は固い。

亡き夫である司さんの意思を守り継ぎたいという点や、過去友里さんが相続について理解をしてくれていたという事実から、私の声が最後まで届くことはなかった。結局は「長男の孝にすべての財産を相続させる」という遺言書を作ることになった。

●相続と2人のきょうだい仲はどうなったのか? 後編【「長男だから」と兄に遺産のすべてを遺した両親…納得できない妹が主張した「当然の権利」】で詳説します。

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