「働けるのに働けない」ジレンマとストレス
スーパーの方針で、パートのシフト調整は、フロアごとに区分された班の班長が行うことになっていた。恵が所属する班の班長は、恵を2年前に職場に誘ってくれた山田律子(46歳)だった。ただ、恵が湊のサッカークラブの試合のために、たびたび土日のどちらかを休みにしてほしいと願い出るようになってから、関係がギクシャクしていた。土日は、平日よりも人出が多く、恵のように優れたキャッシャーは重宝された。恵のレジは、釣り銭の渡し間違いなどがなく、常に収支がきちんとそろっていた。恵とは毎月2回は土日のどちらかを休みにするという約束だったが、子供が進級してサッカーの試合が増えたため、今年から毎月4回の土日休みとなり、それが2カ月に1回は4回が5回になった。律子としては、恵に土日を続けて休まれると、その週末はてんてこ舞いとなってしまって本当に困っていた。
恵は、律子にシフト調整をお願いすると受け入れてはくれるものの、本心では相当怒っていることがわかって嫌だった。恵としても、律子に迷惑をかけてまで働く時間を少なくしたくはなかった。本当であれば収入を増やして楓をバレエ教室に行かせてあげたかった。今のままだと、楓にバレエを習わせるには誠の小遣いを減らすしか方法がなかった。その相談をした時に、誠からは課長になって部下にコーヒーをおごったり、何かと入り用が増えたから小遣いは減らせないと言われて話し合いが進まなかったのだ。
楓からは、毎日のようにバレエ教室に行きたいとせがまれ、職場でも律子から疎まれるのは堪えた。そこで、恵は、スーパーの労使管理の責任者である副店長の猪山学(48歳)に直接相談してみようかと考えた。律子に1対1でお願いするよりも、猪山が一緒にいてくれた方が、話がまとまりやすいように感じたのだ。この時の恵の判断が、その後、大きな火種となって恵のみならず、恵の家庭にも思いがけない災いとなる……。
●シフト調整が原因で恵に起こった思いがけない災いとは? 後編【「休みたいなら愛人になれ」年収の壁に悩むパート主婦を襲った“あり得ない”言動】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。