<前編のあらすじ>
人気劇団のオーディションに1000倍超の倍率を突破して合格した矢沢美月(19歳)は、憧れの先輩に近づこうと希望を胸に俳優修業に臨み、周囲にも認められた。劇団員へのステップを順調に上りつつあったが、2年目に進む直前に劇団主宰の峯山久美子(48歳)からかけられた言葉に絶句してしまう。役者を続けるのか、諦めるのか? 美月が出した答えは……?
●前編:親には「専門学校へ行く」とうそをつき、女優になるため上京した少女の“夢のため”の選択
「パパ活」のうわさ
美月は、同じ研究生仲間から優花のうわさを聞いた。優花は、劇団の研究所とは別にプロダクションに所属しているため、劇団の授業が終わった後でプロダクションが課したダンスと歌唱のレッスンに通っていた。プロダクションからは、雑誌のモデルの仕事などがあり、いくらかの収入があるそうだが、優花の生活を支えているのは「パパ活」らしいという。かなり地位のある裕福な男性が優花をサポートしていて、月に何度かは「パパ」とお泊まりをしているという。その仲間は、優花にうわさは本当なのかを直接確かめたのだそうだ。「風俗で働くのと、パパに生活を支えてもらうのと、あなただったらどっちを選ぶ?」と言い返されて、何も言えなくなったという。
優花が、いつもおしゃれな服を着ていて「女優の雰囲気」を感じさせることに嫉妬を覚えていた美月は、その優花を支えている秘密を知ったように思った。久美子から、「今の生活を何年も続けられる?」と聞かれた時に、即答できた優花は、「俳優になるという自分の夢をかなえるためには、手段を選ばない」という強い覚悟があるのだろう。美月は、「絶対に俳優として成功してみせる」という優花の自信に満ちた強いまなざしを思い返していた。「果たして自分には、優花のような覚悟があるのだろうか……」と考えた時、美月は自分の足元に大きな黒い穴が開いたように感じた。