思い知った自分の限界
劇団の研究生の立場で芝居の稽古を行っている限りは、何も心配することはなかったが、俳優としてプロの仕事をし始めたら、ラブシーンだってあるだろうし、ヌードになることもあるかもしれない。私は、それを演技として乗り越えていくことができるのだろうか? 今まで考えたこともなかったような疑問が次から次へと沸き上がってきた。「その時がきたら、その時の自分に聞いて良しあしの判断ができるはずなのだ。今考えることには何の意味もない」と頭の片隅で思いながら、「あなたにその覚悟があるの?」という言葉がリフレインして眠れなくなった。
そもそも美月は、まともな恋愛経験すらないのだった。劇団の研究生として上京し、午前9時から午後5時までひたすら芝居の稽古に明け暮れた。そんな美月にとって優花の今の生活は信じられなかった。年齢的には1つか2つしか変わらないはずなのに、どうして男性を「スポンサー」と割り切って身体の関係まで作れるのだろうか。美月も「パパ活」という言葉は知っていたし、役者として独り立ちするまでを支えてくれるスポンサーがいてくれたら、どれほど楽だろうと考えなくもなかった。もっと見たい舞台はたくさんあったし、ニューヨークのブロードウェイにも行ってみたかった。優花のように好きな服や化粧にお金を使えるようになれば、表現者として一皮むけるのではないかとも思った。
ただ、美月にはスポンサーになってくれそうな人物に心当たりはなく、どこで出会えるのかもわからなかった。優花に聞くわけにはいかなかった。優花に聞けば、優花との関係が大きく変わることは明らかで、演技以外のことで優花との間で貸し借りがあるような関係にはなりたくなかったからだ。