<前編のあらすじ>
高橋佳奈(28歳)は夫の貴広(31歳)と社内恋愛の末、1年前に結婚した。佳奈は結婚退社をし専業主婦として生活していたが、ある時期から夫に無視されるようになり、夫の無断外泊が続くようになっていた……。

●前編:無断外泊をやめない夫… 20代専業主婦が夫から「悪意」を向けられたワケ

新婚生活に慣れた妻に起こった変化

家事を中心にした生活が続いていた高橋佳奈(28歳)は、ある時から夫の貴広から無視されるようになる……。その理由について聞かされた佳奈は怒りに身が震えた。

佳奈はアルバイト探しを半ばあきらめていた。近所の商店街にもパートタイマーを募集しているような店はなかった。ハローワークにも相談にいったが、佳奈が希望するような短時間の就労先はみつからなかった。そもそも、佳奈が務めていた精密機械メーカーをはじめ、株式公開企業が4社も大きな工場を置き、その周辺に地場の中小企業がいくつも工場を構える工業団地が地域の中心的存在だった。パートやアルバイトなどの非正規でも、午前9時~午後5時までのフルタイムの勤務が基本的に求められていたのだ。レストランやスーパーで募集している比較的短時間の仕事は競争率が高く、昨日今日職探しを始めた佳奈に割って入ることはできなかった。

アルバイト探しを半ばあきらめた佳奈の日常は、すっかり弛緩(しかん)した。貴広を送り出し、その日の洗濯物を干してしまうと午前10時頃になったが、それから夕刻までやることがなかった。アルバイトもできないということが負い目に感じられ、外出してお金を使うことは抵抗があった。家にこもっているとテレビを見るくらいしかすることがなく、テレビに飽きると、いつの間にか居間で寝ていることが多くなった。そして、夕食の買い物の時に、数百円で買えるワインを買って昼間から飲むようになった。ワインを飲むと酔うのだが、そのまま眠って夕方に起きる時にはすっかり酔いも覚めていた。テレビを見ながら眠くなるのを待つよりも、ワインを飲んでほろ酔い加減で眠る方が佳奈には心地よかったので、それが習慣になっていった。

少し身体が重いと感じて体重計に乗ってみたら、60㎏を少し超えていて驚いた。佳奈は身長が155㎝で、それまでの生涯で60㎏を超えた経験はなかった。やはり、昼間からワインを飲んで寝てばかりいるのが体重を増やす原因だとわかっていたが、身に付いた習慣を変えることは難しかった。ただ、体重計が65㎏を超えたときには、少し目まいがした。さすがに、これ以上太るのは良くないと思い、買い物の時に少し遠くのスーパーまで歩くようにした。