新しい人生を始めるにあたって
慰謝料を得た佳奈は、すぐさま東京に移住した。それまでの一切を捨てて、1から人生をやり直すつもりだった。東京暮らしにプレッシャーを感じていたのか、引っ越してすぐに体重は元の体重に戻った。
就職活動の面接に向かうため、地下鉄に乗った時、佳奈の目の前にいた外国人カップルが、地下鉄の路線図を見ながら小声で相談し合っていた。「どうかしましたか?」と自然と英語が口に出た。上野の博物館に行きたいという2人に、すらすらと乗換駅を教えてあげることができた。「そうだ、英語を生かした仕事がしたかったんだ」と今更ながら、前職を志望した動機も海外拠点において国際的なビジネスに関係できると聞かされたことが大きかった。そんな意欲を持って仕事を始めた佳奈だったが、入社してみると、国内出張すらすることのない内勤職に留め置かれ、結婚とともに当たり前のように退職させられた。
佳奈は、「この自分の経験は、何だったのだろう?」と自問自答していた。ただ、佳奈が自ら選択した結果であることは、間違いがなかった。「自分が選んだ人生」と改めてかみしめることから、佳奈は新しい人生を始めた。どんな結果が待っていようと、自分の決断の結果なのだから受け止めよう。そんな風に思った時、胸の中に黒くわだかまっていた重しがスッと抜けていったように思えた。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
文/風間 浩