扶養の範囲内は夫の「強い意向」で
恵のパート収入を扶養の範囲内に収めるようにと強く制限したのは誠だった。誠は課長に昇格したことで、毎月の給与は上がり、ボーナスも増えたのだが、それに伴って税額も上がった。「仕事の内容はより多くなったのに、それに見合うだけの手取り収入になっていない」というのが誠の受け止めで、それは、税金のせいだと決めつけた。そのため、ネットの情報をかなりしつこく調べ、恵が税制上の扶養範囲から外れる103万円を超えるような働き方はしないようにと強く言い出した。まして、年収130万円を超えると恵自身で社会保険に加入しなければならないため、「せっかく配偶者控除や扶養配偶者として厚生年金や社会保険の恩恵を受けられるのに、それを無駄にすることはない」と誠は強く主張した。
ところが、社会保障制度が変わって、恵が務めているスーパーマーケットの規模(従業員数101人以上、2024年10月からは従業員数51人以上)では、恵のように週20時間以上、月額8.8万円以上の賃金を得ている場合は年収が106万円以上になると社会保険料を自分で支払う必要があることになった。誠からは、どんなことがあっても106万円を超えて働くなと強く言われていた。しかし、このままだと103万円以内に収入を抑えることは難しそうだった。少なくとも週4日は働いてきたのに、それをいきなり週1日にしてくれとは言えなかった。恵は電卓をたたきながら、週3日で12月は12日間働くとギリギリで年収が105万円程度になりそうだということがわかって安堵した。