突然の退職、そして…

2カ月後の月末のある日。

社内ではもうすっかり話題にも上らなくなった米倉京子からの「退職願」が届いた。

経理部の梅塚宛てに封筒が届いたとき、京子からのはがきだと分からなかった。

ぞっとするほど美しい筆文字で書かれていたから。

梅塚は封筒を開ける前に、とっさに書道教室の名前をSNSで検索した。

授業料と道具代と称して法外な金額を貢がされた、被害の声が流れていた。筆が50万円。紙が1枚1万円。すずりが500万円……。

「教室」と呼ばれる施設に合宿し、昼夜を徹して何千枚も書かせるという異様なプログラムがあり、なかには会社を辞め、家を売り、自己破産した人もいるという。

そこでふと、思い出した。

京子の父母の病が発覚してから、そろそろ限度額を越えた医療費が口座に返還される頃ではないか。京子はその金もきっと「彼ら」に……。

封筒の中の手紙はこう始まっていた。

「梅塚 篤 様。あなたに『趣味を持ったほうがいい』と言っていただいたこと、本当に感謝しています……」

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。