借金は100万円どころではなかった

ところが兄へ50万円を渡した翌日、また電話があり、小栗さんから交際中の女性に、「俺が借金完済したと説明してくれ」と頼まれる。

「どういうことか」と聞き出すと、借金は本当は400万円あると言う。父親の生前、両親の借金を肩代わりするためにお金を借りたのは本当だが、その時の金額は50万円ほど。残りの350万円は自分の都合で借りていた。それを妻になる女性に知られたくない……というのが真実だった。

「兄は、タバコもお酒もギャンブルもやり、高級車をローンで購入するなど、貯蓄のできない浪費家でした。兄は親の失態に便乗して、自分の悪事を誤魔化していたのです。兄はよく私に、『俺は親とは違う! 嘘が一番嫌いだ!』と言っていたし、両親のことも無茶苦茶に責めていましたが、金銭搾取のやり方が両親にそっくりで、悲しくなりました」

それでも兄と関係を悪化させたくない理由

小栗さんは結婚後、帰省にかかった交通費や、両親に援助した金額をあわせると、1000万円は超えると言う。一方、兄は大学進学後、実家にはほとんど帰ってこなくなっていた。

「正直、私は兄のことをずるいと思いました。でも、私はそれを言うのを我慢しました。故郷に住む兄が主介護者から手を引いてしまえば、母の施設の手続きの更新も、実家の庭木や雑草のことも、役場やご近所からの苦情対応も税金対策も、すべてが滞ってしまうからです。私は、私自身の生活や家族を守るために、兄に“搾取されてあげた”のです」

実家は母親が特養に移ると同時に空き家になった。家屋は母屋と離れがあり、土地は広大な田畑の他に、墓所となっている山がある。小栗さんは、「将来的には、墓所以外はすべて更地にして現金化し、『兄妹で均等に分けよう』と、兄から提案されました」と話す。

“名家の分家”というプライドを持ち、一人娘をお嬢様として育てた祖母。そして長男を溺愛するあまり、交際を妨害し続けた母親。しかし、その長男は、生活のままならない両親を放置し、挙句の果てに借金を抱え、妹に金を無心している……。

小栗さんの祖母や母親は一体、何を目指していたのだろうか。