小栗知世さん(50代・既婚)の母親と祖母は、幼い頃から兄ばかりをひいきした。小栗さんは肉親に疎まれながら暮らす日々に息苦しさを覚え、結婚を機に家を出た。
しかし、家庭環境に辟易していたのは栗木さんだけではなかった。情緒不安定で、宗教に依存する母親が負担になったのか、自暴自棄になった父親もまたアルコールに依存した。そして、父親の飲酒運転をするたびに警察に呼び出される兄も、限界に達していた。
兄が無断で車を廃車にしてから2カ月後、父親は入浴中に亡くなった。
●前編:【依存症でトラブル頻発の70代両親…辟易した長男の“冷たすぎる”対応】
感じられた両親への憎しみの深さ
兄から父親の訃報を受けた時、小栗さんはその声の冷たさに驚きを隠せなかった。
「私の故郷は、車が無ければ生きられないほどの田舎町です。情緒不安定な母の気分転換や通院、買物に車が無ければ、ほとんど何もできません。遠方に住んでいる私は、兄に両親を託していました。兄に料理や洗濯などの家事は期待していませんでしたが、少なくとも親の買物や送迎くらいやってくれると思っていたのです。しかし、兄は驚くほど何もしていませんでした」
兄は電話で、両親があまり食事を摂っていないことを知っていながら、「放置していた」と言ってのけた。
「兄からは、後悔や罪悪感が全く感じられませんでした。ですが、兄の立場に立ってみれば、当然かもしれません。父は私のことは可愛がってくれましたが、兄には暴力を振っていました。母は兄を溺愛するあまり、女性との交際をことごとく妨害しました。その上、負債を抱える両親を、私たち兄妹は常に強制的に援助させられていたのです。憎しみに近い感情があっても全くおかしくないと思います。それでも、私はこれまでにないほどの冷たさを兄に感じました」