烏丸珠樹さん(仮名)は幼少期に酒乱の父親から虐待を受けていた。ある時、限界を迎えた一家は父親をおいて着の身着のまま家から逃げ出し、別居後は一切連絡を取らなかった。
それから三十数年、それぞれが家庭を築き幸せに暮らしていたところ、“いとこ”と名乗る男性が烏丸さんを訪ねてきた。父親は入院していて介護が必要な状態だと言う。
父との再会をきっかけに起こった“お金の問題”とは、一体何だったのか。
酒乱の父親
四国地方在住の烏丸珠樹さん(50代・既婚・IT系会社員)は、現在、車で5分くらいのところに一人で暮らす88歳の母親を通い介護している。
船員をしていた父親は、半年ほど仕事で家を空けては、20日程度の休暇で家に帰ってくる生活を送っていたが、酒を飲むと暴れる人だった。
父親の機嫌が良いのは帰宅した日の夜まで。翌朝から酒を飲み、酔いが回ると暴言と暴力をふるい始める。ターゲットは専ら母親と烏丸さんだった。1歳上の姉は父親にかわいがられており、ほとんど危害を加えられることはなかった。
烏丸さんが高校2年生になったある日、休暇でもないのに父親が突然帰ってきた。母親に聞くと、父親は上司とけんかをして、そのまま退職してしまったのだと言う。これが烏丸さんと母親にとっての、地獄の始まりだった――。
朝から酒を飲んでは、少しでも気に入らないことがあるとすぐに暴力をふるい始める。烏丸さんは、何がトリガーになるか分からず、おびえて暮らさなければならなかった。
烏丸さんをかばう母親はもっとひどい扱いを受けた。素手で殴るだけでなく、物で殴ることもある。母親がガラスの灰皿を投げつけられた時は、頭に当たり出血がひどかったため、病院を受診した。
父親が仕事を辞めてから2〜3カ月たったある夜、母親と姉と烏丸さんで家を出た。着の身着のままで伯父(母親の兄)の家に転がり込んだ。