予報を裏切る本格的な吹雪

サービスエリアを出て10分もしないうちに、景色が変わった。

木立が密になり、カーブと坂道が続く。先日降った雪が路肩に残っているのを横目に、弘子は意識して速度を落とした。他の車がおらず、ペースを気にしなくて良いのがせめてもの救いだった。

「あ……」

最初にフロントガラスへ当たったのは、細かな粒だった。雨のように散って、すぐに消える。

「今の、雪か?」

「そうかも」

まだ大丈夫だと、心の中で付け加える。

だが次のトンネルを抜けた瞬間、氷の粒は一気に吹雪へと変わった。風の音とともに、雪が横殴りに叩きつける。もう長い時間降り続けているのか、積もっていることが一目でよく分かる。真っ白になった視界に、思わず眉間にしわが寄った。

「あちゃー、本格的に降ってきたな」

予報が外れた。その事実を認めた途端、今まで気づかぬふりをしていた不安がじわりと広がる。後部座席では、俊が窓を覗き込んでいる。

「雪、すごいね。ママ、窓開けてよ」

「バカ言わないで。ちゃんと座ってなさい。ゲームしてていいから」

「さっきからネット繋がらないんだよ。超暇。ばあちゃん家、まだ?」

「あ、こら。シート蹴らないでっていつも……」

カーブに入った瞬間、車体がふっと外へ逃げる。タイヤが路面を失う感触。弘子はハンドルを抑え、アクセルを離した。ブレーキは踏まない。遅れてタイヤが噛み、車は何事もなかったように戻る。

「今、滑った?」

「少しね。ゆっくり走るわ」

それ以上、言葉を足さなかった。口にすると恐怖が形になるような気がしたからだったが、大して意味はなかった。

そのあとすぐ、緩い上りでふっと失速するような感覚を覚えたかと思うと、エンジン音が高くなった。車が前へ進まず、空回りだと分かると背筋が凍った。

「おい、まずいぞ」

「分かってる」

前にも後ろにも動かせないと分かり、車内の空気が重くなる。

だが俊だけは、まるで危機感がない。

「ねえ、外出たい。遊んできてもいい?」

「ダメに決まってるでしょ」

即答した声は思いのほか冷たく、沈黙が落ちた。吹雪で消えかけた白い道を見つめながら、弘子は頭を抱えた。時間とともに、白い雪が静かに積もっていく。

●コスパを優先してスタッドレスタイヤを買わず、天気予報を信じて山道へ向かった弘子たち家族。しかし予報は外れ、吹雪の中で車が動かなくなってしまった…… 後編【「装備なしで山に入るなんて…」雪に埋まった車、圏外のスマホ、子どもの暴走…絶望の淵に立たされた家族の行方は】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。