山道を前に募る焦り

サービスエリアの表示が現れると、琢也はウインカーを出し、流れに沿って減速する。ランプを下りた途端、風向きが変わり、車体が一瞬だけ煽られた気がした。

弘子は窓の外へ目を向ける。遠くに見える山の稜線は、上のほうだけ色が鈍い。雲なのか、光の加減なのか分からず、嫌な感じだけが残る。

「着いたぞー」

「運転お疲れさま」

車が駐車スペースに入り、エンジンが止まる。ドアを開けた瞬間、凍りつくような鋭い空気が頬を刺した。思ったより冷える。弘子はコートの襟元を手繰り寄せた。

「トイレ休憩にしよう。俊も行っときな」

振り返ると、俊はゲーム機を握ったまま「あとで」と言う。

「今、行くの。休憩したら、すぐに出るからね」

「えー、今いいとこなのに」

今度は、琢也が俊の方を向いた。

「ほら行くぞ。ゲームはあとでいいだろ」

俊は不満そうに鼻を鳴らしながら車を降りた。

「じゃあ、俊お願いね。先に車戻ってていいから」

「はいよ」

用を足して手洗いの外へ出ると、入口付近の照明が白く眩しい。

周囲を見回すと、すぐに2人は見つかった。

フードコートの端のベンチで、俊は菓子パンらしきものを頬張り、指先についた粉を舐めている。琢也は紙コップを手に、隣でのんびりスマホをいじっていた。弘子の足がぴたりと止まる。

「……ちょっと何してるの」

「俊が腹減ったって」

俊は口を動かしたまま弘子を見て、「これ、うまい」と言う。

弘子は一度、息を吐いた。息子はさっきも車内で散々お菓子を食べていたはずだ。

「甘いもの食べすぎ。それに、トイレ休憩だけって言ったよね。それにお義母さん、ご馳走用意して待ってくれてるでしょ」

「まあまあ、たまにはいいじゃん。そんなに時間、かかってないよ」

「けど今から山道だよ。午前中のうちに抜けたかったのに」

そう言うと、琢也は肩をすくめた。

「分かったよ。すぐ戻る。俊、さっさと食っちまえ」

「ん……」

俊は最後の一口を押し込み、包み紙を握ったまま立ち上がる。

「戻る前に手と口、ちゃんと拭いてよ。ゴミも自分で捨ててきなさい」

俊はむっとした顔をしたが、弘子の差し出したウエットティッシュを受け取り、ゴミ箱に駆けていった。

建物の外に出ると、風がさらに強くなっていた。思わず山の方を見ると、稜線はさっきより白っぽい気がして歩幅を早める。

「ほら、早く乗って」

車に戻り、弘子は運転席へ回った。ハンドルに触れた指先が冷たい。余計な不安を追い払うように、弘子はエンジンをかけた。