突然訪れたのは…

翌日の午後、インターホンが鳴った。

玄関に出ると、義両親が両手に紙袋を提げて立っていた。あのあとチケットを取って、朝いちの便で来たらしい。義母は「夜のうちに準備してきたのよ」と言い、果物と鍋の具材が見える袋を差し出す。

「ご迷惑かとも思ったけど、茉莉ちゃんとお母さんだけじゃ、年越し準備が大変だろうと思って」

「まあ……ありがとうございます」

母は義母に恐縮した様子で頭を下げると、義父が横から口を挟んだ。

「うちのが役に立たなさそうだからね。息子の代わりに手伝いにきましたよ」

洋平が居心地悪そうにうつむくのが見える。

「お加減はどうですか」

中に招かれた義両親が声をかけると、父は布団の上で上体を起こし、「これは、わざわざ」と気まずそうに笑う。すると、義母は即座に返した。

「あら、ダメですよ。いまは安静なんでしょう。横になってないと」

「そうそう、医者の言うことは素直に聞いとくもんです」

父は義両親の勢いに負け「はいはい」と手を上げて、布団の中に退散する。その様子を見た母の肩から力が抜け、空気が少し軽くなるのがわかった。

「さあさあ、手分けして準備しましょうか。ほら洋平、あんたも手伝うのよ」

「……わかってるって」

やがて鍋が温まり、台所に湯気が立つ。

義母の指揮のもと、義父はテーブルを拭き、洋平は皿を運んだ。

真美は相変わらず多くは話さないが、義母に「これできる?」と聞かれると「……うん」と返す。

こうして完成した即席の夕食の途中、母がぽつりと言った。

「来年は……私たちも、そちらに伺えるといいのだけど。まだ歩けるうちに」

「いつでも歓迎しますよ。お父さんが回復されたら是非」

義母の隣で、義父も大きく頷いた。

夫婦で交わした約束

夕食の片付けが一段落したころ、茉莉は廊下で洋平に声をかけた。

居間から少し離れた廊下。

「……来年から、帰省は交互にしない? 両親ももう若くないし、会えるうちに会っておきたい。距離が遠いとか、お金がかかるとか、そういう理由で我慢する状況を変えたいの」

洋平は余計な言い訳を挟まず、短くうなずいた。

「うん、わかった」

奥の座敷を覗くと、父は布団の中で目を閉じている。母がその肩にそっと手を置き、「今日はよく眠れるわね」と言った。真美はこたつの端で膝を抱え、みかんの白い筋を黙って取っている。

窓の外では、冬の空に雪がちらつき始めていた。遠くの車の音が途切れ途切れに聞こえる。台所には、出汁の残り香が漂い、時計の秒針だけが規則正しく進んでいく。

茉莉はこたつの縁に指先を置き、そっと撫でた。テーブルの隅には湯気の消えた湯飲みが並び、小鉢の中でみかんの皮が丸く重なっていた。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。