<前編のあらすじ>
茉莉は実家の父が腰を痛めたと聞き帰省を提案するが、夫・洋平は飛行機代の高さや移動の負担を理由に却下。年末年始は今年も洋平の実家に行くことになった。
義母に「毎年こっちばかりで申し訳ない」と気遣われるが、洋平が「向こうは遠いし飛行機代が高い」と口を挟む。茉莉の胸には複雑な思いが残った。
そのとき、母から父が家で転んで頭を打ち、救急車で搬送されたという電話が入った。茉莉は動揺を抑えながら「いつでも動けるようにしておく」と母に伝え、電話を切った。
●前編【「飛行機代が高いから」と夫の実家ばかり優先される年末年始に母からの一報…後回しにされ続けた妻が抱えた限界】
すぐに実家へ向かいたい
「茉莉ちゃん……電話大丈夫?」
居間へ戻ると、義母が立っていた。義父もテレビを消し、洋平は立ったまま茉莉を見ている。真美はこたつから出て、膝の上のスマホを黙ってバッグにしまっていた。
「母からです。父が転んで頭を打って、いま救急外来にいるって。検査中で、詳しいことはまだわからないって」
洋平が病院はどこだ、と尋ね、茉莉は母から聞いた病院名を伝えた。真美がイヤホンを外し、茉莉を見る。
「……おじいちゃん病院なの?」
茉莉はうなずいた。
「まだ詳しいことはわからない。いま病院で調べてもらってるって」
「お義母さんはなんて?」
「状況がわかったら、また連絡してくれる。でも……私も向かいたい」
口にした途端、頭の中が出発の段取りに切り替わった。
まずは、いつでも動ける状態にする。それしかなかった。
茉莉は台所へ戻り、火を止めた鍋のふたをきちんと閉める。義母がすぐ後ろに立ち、「ここはいいから」と言って作業を引き受けた。義父は電話を手にして、空港までのタクシーを手配しようとしてくれている。
そんななか、洋平だけは眉をひそめたまま言った。
「ちょっと待ってよ。今はまだ検査中だし、意識はあるんだろ? 説明を聞いてからでもいいじゃん。茉莉が行っても何かできるわけじゃない」
「……行かないで待つのが、無理なの」
茉莉は荷物をまとめながら短く返した。だが、洋平がなおも続ける。
「あのな、飛行機だぞ。今から取ったら高いし、席があるかも——」
その先を、義父の声が遮った。
