<前編のあらすじ>

会社の帰り道に銭湯「しじま湯」で肩の力を抜くのが大切な時間になっていた園子。しかしある日、閉店を告げる貼り紙を目にしてから園子の心がざわつき始める。

27歳でやりたいことを諦めていた園子は自分の人生を振り返りつつ、今働いている会社を辞め、しじま湯を継ぐ決意を固めた。

しじま湯で住み込みで働き始めてから、老朽化した施設、赤字の帳簿を目の当たりにしながらも、銭湯の再起に向けて想いを馳せる園子だった。

●【前編】「閉店するって本当?」大切な居場所が消える日を前に無気力OLの置いてきた夢と新たな夢が疼くとき

新しい一歩を踏み出す銭湯と園子

「浴場の絵を描き直したい」

そう告げたとき、佐々木はしばし沈黙した。

一瞬、その表情が憂いを帯びたような気がして、園子ははっと息を飲んだ。何となく佐々木の核のようなものに触れてしまった気がしたからだ。

「気が、進みませんか? それなら別に……」

「いや」

再び沈黙が流れ、園子が内心焦り始めたとき、佐々木は口を開いた。

「あれは家内が気に入っていてね」

「それなら残した方が……」

「いい。これ以上ボロボロになってくのを見るのもなんだし、その方が家内も喜ぶだろ」

佐々木は「あんたの好きにしたらいい」と言い、逃げるように湯温計を見に戻った。亡くなった妻のことを語って、照れくさくなったのかもしれない。

それから園子は、自腹でリフォーム工事を業者に依頼し、しじま湯のリニューアルオープンに取りかかった。