<前編のあらすじ>

20年間疎遠だった父の死をきっかけに、兄弟の伸介と猛は久しぶりに再会する。遺されたのはわずかな預金と、使い古された実家のみ。

しかし、伸介のもとに届いた納税通知書によって、父が山林を所有していたことが発覚。管理するにも手間と税金がかかる負の遺産だったため、2人は相続放棄を決意し手続きを進める。

これで父との関係に終止符を打てたと安心したのも束の間、相続放棄をしたはずのその山が、兄弟をさらなる問題に巻き込んでいくことになるのだった。

●【前編】「これでやっと縁が切れた」父が遺した貯金はたったの20万円…兄弟が陥った相続の落とし穴

相続放棄したはずが…

すっかり冷え込みが厳しくなったある日、伸介のスマホに知らない電話番号からの着信が残っていた。

留守番電話を再生すると、相手は自治会の代理人を名乗る男性。山林の件で話があるので折り返し連絡が欲しいという。とっくに忘れていた父の山林の話が出た時点で驚きだったが、電話をかけなおすと、さらに衝撃的な内容を告げられた。要約すると、「裏山の小屋に蜂の巣ができ、刺傷者が出ている」「倒木や枯れ竹が道路に張り出し危険」「至急、所有者側で対応を」とのことだった。

「父の遺産は、既に相続放棄しました。通知も届いてます。申し訳ないが、もう私たちと関係は……」

辛うじて反論するも、どうにも話が噛み合わない。

相手は「至急対応してくれ」の一点張り。仕方なく再び現地へ赴くことを約束し、伸介は電話を切った。

そしてパソコンを開き、相続放棄についての情報を読み漁った。該当箇所を見つけ、画面を滑る指が止まる。

「相続財産清算人が選任されるまで、財産の保存に必要な行為をすべき義務がある」

淡々とした文言に、腹の底が冷えた。つまり放棄したあとでも、最低限の管理だけはしろということか。