無力感に打ちひしがれる英子
夕食のテーブルに湯気が立ちのぼる。
鍋から取り分けた肉じゃがの香りが、ほのかに甘く広がっていた。英子は湯飲みにお茶を注ぎながら、向かいに座る來未をちらりと見る。
「今日、大学はどうだった?」
何気ない声で問いかけると、娘は箸を動かしながら答えた。
「うん……普通」
返事はするものの、どこか上の空だ。料理を口に運んでも、味わうというより、ただ義務のように噛んでいるだけ。
母親として何かをしてやりたいのに、どうすればよいのかが分からない。
「バイトには行けてる?」
「うん、行ってる」
「疲れてない?」
「大丈夫」
短いやり取りが続くだけで、会話は深まらない。
食事を終えると、來未は食器を流しに運び、自分の部屋へ戻っていった。英子は台所で皿を洗いながら、ちらちらと彼女の背中を目で追った。ドアが閉まる音がしたあと、静けさだけが残る。
リビングの隅に腰を下ろし、英子はぼんやりと考え込む。
娘は大学やバイトには通っている。完全にメンタルが崩れているわけではないが、彼女の心は未だ沈んだままだ。
「私には、共感してやる力が足りないんだな」
心の支えを失った彼女の喪失感を、頭で理解することはできても実感はできない。
親子でありながら、どうしてこんなにも距離があるのだろう。自分の淡白な性格が恨めしくなる。もっと感情豊かに、娘と同じ目線で泣いたり笑ったりできたらよかったのに。