高い役員報酬を受け取ると年金が少なくなる

しかし、芙美子さんが引き続き高い役員報酬を受け取ると、そのうち老齢厚生年金は在職老齢年金制度によって支給停止になります。老齢厚生年金のうち報酬比例部分がその対象です。

芙美子さんの場合、年額60万円・月額5万円の老齢厚生年金のうち報酬比例部分が年額48万円・月額4万円となっていました。この報酬比例部分の年金の月額と役員報酬から計算される標準報酬月額を合わせて51万円(2025年度の場合)を超えると、超えた分の2分の1が停止されることになります。役員報酬は月額70万円で、この場合の標準報酬月額はその上限の65万円で計算され、一方、報酬比例部分の年金は月額4万円。65万円+4万円で合計69万円となって51万円を18万円超えています。そして、その2分の1は9万円になります。9万円の停止額が報酬比例部分4万円より多いため、芙美子さんの報酬比例部分・月額4万円(年額48万円)は全額支給停止されてしまいます。

在職により老齢基礎年金や遺族厚生年金はカットされませんが、このように老齢厚生年金が調整されてしまうのです。

老齢厚生年金がカットされた分の遺族厚生年金は支給されない

ここで、差額支給扱いの遺族厚生年金についてですが、老齢厚生年金(報酬比例部分)が支給停止になったからといって、その分の遺族厚生年金が支給されるようになるわけではありません。そのため、老齢基礎年金が80万円、老齢厚生年金が12万円(60万円-停止額48万円)で、遺族厚生年金は45万円(105万円-60万円)で支給されるようになります。合計137万円となり、今の役員報酬のまま65歳以降も厚生年金加入中の場合は65歳前の165万円より少なくなります。

この計算を聞いて芙美子さんは「役員を続けている間は、厚生年金の保険料はかかるのに年金が減った額になるのか……」とその仕組みをようやく理解します。

ただし、職員によると、65歳以降の厚生年金の加入・掛け方次第では、役員退任後に支給停止がなくなったうえで、年金の合計額が65歳時点の185万円より多くなるとのことでした。また、在職老齢年金制度の基準額の51万円が2026年4月から62万円を基礎に計算されることで支給停止額が減るようになること、一方で65万円となっている標準報酬月額の上限が将来段階的に引き上げられることなど、年金の支給停止額に影響がある制度改正についても説明されます。

これらの話を聞いた芙美子さんは「制度改正も加わって複雑すぎて混乱しそうだけど、やっぱりまとまった収入として役員報酬を今のまま受け取っておいたほうがいいのかも」と考えるようになりました。

遺族厚生年金を受け始めてから収入が多くなっても遺族厚生年金は調整されません。一方、老齢厚生年金には調整の仕組みがあります。65歳以降高い報酬を受け取れる人はあまり多くないですが、遺族厚生年金と老齢厚生年金を併せて受給する場合は、その仕組みを事前に把握して、厚生年金の掛け方についても考えるとよいのではないでしょうか。

※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。