同窓会に着ていく服で…
封筒の差出人を見た瞬間、胸が少しだけ高鳴った。
大学時代の同窓会案内。封を切ると、懐かしい名前と日時、そして会費の金額が目に飛び込んでくる。やや高めだが、久しぶりの再会にはそれだけの価値があると思えた。
夕食後、湯気の残る食器を片づけながら、優子はタイミングを見計らった。裕信はいつものようにパソコンで家計簿を開いている。
「ねえ、これ、大学の同窓会の案内が届いたの。行ってきていい?」
そっと封筒を差し出すと、彼はちらりと視線を落とし、すぐにまた画面に目を戻した。
「会費はいくら?」
「1万円だって」
少しの沈黙。カタカタというキーの音が止まり、「……まあ、いいよ」と渋い声が返ってきた。
「それでね、せっかくだから、ワンピースでもレンタルしようかなって」
軽く笑いながら言うと、彼の眉間に皺が寄った。
「いつものスーツで十分だろ」
たしかに無難だが、華やかな会場にスーツ姿で登場する自分を思い浮かべると、心が沈む。
「でも……」
「そんな無駄遣いする必要ある? どうせ1回きりだろ」
その言葉に、胸の奥で小さな火がついた。
「無駄遣いって……たまにおしゃれしたっていいじゃない。何年も会ってない友達もいるんだよ」
「でも、そのお金で食費が何日分まかなえると思ってるんだ」
「そうやって何でも我慢して、いつ楽しむの?」
声が自然と強くなる。
呼応するように裕信の表情も険しくなった。
「楽しみなんて、いくらでも後でできる。まずは貯蓄が優先だ」
「じゃあ、私が明日死んだら?」
「は?」
「外食もせず、新しい服も買わず、ずーーっと我慢して……人生を楽しまないまま、私が死んでもいいって言うの?」
「そんなことは言ってない」
「言ってるわよ!」
2人の間に、冷たい空気が広がった。
結局その夜はそれっきり口もきかず、優子は娘たちに気を遣わせながら台所で1人お茶を飲んだ。次女が小声で「お母さん、好きなドレス着て行きなよ」と言ってくれたのが、唯一の救いだった。
翌日、優子は自分の小さなヘソクリ箱を開けた。
結婚してからこっそり貯めてきたお金。ドレスのレンタル代くらいは余裕で足りる。「これでいい」そうつぶやき、スマホでレンタルドレスのサイトを開く。深いネイビーのロングワンピースに一目惚れした。落ち着いた色合いながら、胸元のレースと流れるようなシルエットが華やかだ。
節約で守られた生活も、きっと大事だろう。だが、優子には優子の時間がある。その時間を、少しくらいは自分のために使ってもいいはずだ―。
●節約という名の「我慢の押しつけ」に限界を感じた優子。さらに、この後に起こる出来事が、家族の関係を大きく変えることになります。後編『「何のためにお金を貯めてるの?」娘のお願いを全否定し妻は激怒…過剰節約夫に次女が果たした「効果的な仕返し」』にて詳報します。