美紀子はパートの仕事終わりにスーパーで買い物をする。

時刻は16時、帰ってそのまま夕食の準備をするのが決まりになっている。美紀子はお目当ての材料をカゴに入れていくのだが、牛乳を取ろうとして手を止めた。値段が10円上がっていた。ここ数年、食品の値上がりは美紀子にとって大きな悩みだった。

美紀子は夫の栄志、中学生の息子の達也の3人で暮らしている。決して苦しい生活を送っているわけではないのだが、将来のことを考えると不安は常にある。だからこそなるべく貯金をしたいのだが、食料品の値上がりやガソリンの高騰などにより思ったようにできていない。牛乳だって大手のものはしばらく買ってない。スーパーが出している安いプライベートブランドの商品を買っているのだが、それすらも高くなってきてしまった。

とはいえ牛乳を好んで飲む達也のためにはいつでも冷蔵庫に牛乳は置いておいてあげたい。美紀子はため息をつきながら牛乳をカゴに入れてレジへと向かった。
家族の生活費は基本的に美紀子のパート代と、夫の栄志が月々の給料から美紀子の口座に振り込んでくれる数万円で賄われている。結婚したとき、共有の口座を作り、貯金などを管理しようと美紀子は言ったが、栄志が首を縦に振らなかったためだ。

もちろん、生活費が足りなくなれば夫の栄志から新たに振り込んでもらうくらいの柔軟性はある。だがケチな性分の栄志はすごく嫌そうな顔をするし、何に使うのか、なぜ足りなかったのかを根掘り葉掘り聞いてくる。もう結婚生活も15年目なのですっかり慣れてしまっていたが、こと家計やお金のことに関しては考えれば考えるほど釈然としないことは多い。

そんな生活にも関わらず、美紀子がうまくやってこられたのは、単に栄志の給料がいいからだろう。製造業や物流業向けのコンサルティング会社で働く栄志の収入は同世代である40代の平均収入から見てもはるかに高い。美紀子が稼いでいるわけではなかったが、そうした経済的な余裕が、心の余裕を生んでいる側面はかなり大きいように思っていた。

だが――。