天気の話をするように、あっけらかんと……。
「夏のボーナス、出ないことになった」
夕食を食べ終え、中学生になった息子の達也が自室に引き上げていったタイミングで、栄志が天気の話をするような気安さで言った。
「……は?」
「いや、だからボーナスがなくなったんだよ」
思わず聞き返した美紀子に、栄志はばつが悪そうにうつむきながら同じ言葉をくり返す。
「そうじゃなくて、どういうこと?」
栄志の会社は毎年、夏と冬にボーナスが支給される。美紀子たちの生活にとってとても大事なお金だ。
「いや、何か、大口の取引先がいたんだけどそこが倒産したみたいで、それで資金繰りが大変みたいなんだよ」
「だから急にボーナスなしってことになったの?」
「うん、まあ仕方ないよ」
栄志は他人事のように言った。
もちろんボーナスの支給は会社の業績次第だ。資金繰りが厳しければ、大幅に額が減ったり、今回のように支給自体がなくなることもあるのかもしれない。けれど、もっと真剣に考えてほしかった。いや、考えるべきだった。
ボーナスは出たらラッキーなんてものではなく、家族3人の生活を支えるための大切なお金なのだ。
「ねえ、つぶれた会社ってどこなの? そんな大口のところがつぶれるって大変なことじゃない?」
「それは俺だって知らないよ。俺は仕事したことないところだから……」
「詳しい説明はなかったの?」
「あ、ああ。特にそんな話はなかったよ……」
そこから美紀子は詳しく事情を聞き出そうとするが、栄志は業務上の話だから言うことができないと口をつぐんでしまった。
美紀子はとてもじゃないが栄志の説明に納得をすることができなかった。