<前編のあらすじ>
夫の英志、息子の達也と暮らすパート主婦の美紀子は、「夏のボーナス、出ないことになった」とあっけらかんと伝える英志に不信感を募らせていた。もともと夫からは月数万円しか生活費を渡されず、足りない分は自分のパート代で賄っていた美紀子。このところの物価高で、食費のやりくりにすら苦労していたのだ。問い詰める美紀子に、英志は曖昧な説明を繰り返すばかりだった。
そんな折、夫の同僚から聞いた「何、それ?」「ボーナスはちゃんと出た」という言葉……。美紀子の不信は絶望へと変わっていった。
●前編:「ボーナスなくなったから」。食品の値上がりに悩む主婦が抱える「いびつな夫婦関係」と「夏の大事件」
「どんな選択したって私は味方だから」姉の言葉に…
「急に相談なんて珍しいじゃない。旦那とけんかでもした?」
待ち合わせのカフェに現れた姉の文香は、まだ何も言っていないのに第一声から鋭かった。
「けんかっていうか……というより、なんで分かるの?」
「そりゃ、あんたが私に頼るのなんてそれくらいでしょ」
文香はおちゃらけた様子で胸を張る。
「いいわよ。離婚の先輩に何でも聞きなさい」
文香は5年前に離婚をしていた。原因は夫が黙って借金を作っていたことだったらしく、文香は早々に見切りをつけて別れを切り出した。夫のほうがごねたので調停は長引いたが、子供もいなかった文香は身軽になり、もともとの趣味だった旅行を楽しみ、人生を謳歌している。人生の経験値も豊富だし、頼りになる姉だ。
美紀子は事のあらましを文香に話した。文香は運ばれてきたカフェオレを飲みながら、うなずいたりしながら真剣な表情で耳を傾けた。
「もう別れたらいいじゃない」
「別れたらって、そんな簡単に言わないでよ」
話を聞いたあと、あっけらかんと言った文香に、美紀子は唇をとがらせた。
「簡単には言ってないわよ。だって、そもそも不平等じゃない。そりゃ自分が稼いだお金だから自分で管理したいのかもしれないけど、それってこっちに身動きとりづらくさせたり、お金をもらってるっていう上下関係を植え付けようとするみたいに嫌な感じだなってずっと思ってた」
文香の言うことは、不思議とすんなりふに落ちた。きっとずっと釈然とせずに抱えていたもやもやが、今文香の言葉によって明確な姿かたちを与えられたのだ。
「で、ボーナス隠しでしょ? これまで美紀子が我慢できてたのはさ、信頼してたからじゃないの? でもそれすら裏切られて、これ以上旦那と一緒にいる理由って何かある?」
「ほら、だって達也もいるし」
「子供を言い訳に使わないの。もし本気で別れるなら、問題は仕事ね。パートだけじゃ大変だろうし。まあ、もう1回、自分の人生考え直してみたら? こうじゃなきゃダメなんてことないんだし、どんな選択したって私は美紀子の味方だから」
文香に言われて、美紀子はハッとする。向けられた言葉はぶっきらぼうだが、それでも真っすぐに自分を慮ってくれていることがよく分かるぬくもりを持っていた。