「無駄遣いが多い」「娘に甘すぎる」…決めつける義母

義母の佳保里が玄関に置いたスツールに腰を下ろして、サンダルを履いている。その横顔に向かって、めぐみは愛想よく声をかけた。

「……お義母さん、今日もありがとうございました。いつもすみません」

「いーえ、それは別にいいんだけどねえ」

だが、「よっこらしょ」と立ち上がった義母は、こちらを振り返りながらため息混じりにこう言った。

「あなたたち、あの子に甘すぎるんじゃないの?」

義母が投げかける言葉に、めぐみは内心でため息をつく。

めぐみは会社に勤めながら、7歳の娘・真希を育てている。夫婦共働きで、お互いに朝から晩まで仕事に追われる毎日だ。だからこそ夏休みの間、小学生の真希の世話を引き受けてくれる義母の存在は、本当にありがたい……はずなのだが。

「ゲームだの、タブレットだの、私たちの時代には考えられなかったわよ。子どものうちから、あんなものに夢中になって、将来どうするの?」

息つく間もなくまくし立てる義母は、基本的に人の話を聞かないタイプの人だ。お世辞にも人当たりが良いとは言えず、正直、言葉も態度もきつい。

「一応、1日の使用時間は制限してますし、遊ぶのは宿題を終わらせてからです。ちゃんとルールを決めてますから、大丈夫ですよ」

めぐみはできるだけ穏やかにそう答えた。しかし、義母の険しい表情は変わらない。

「ルールを決めたって、結局、子どもは抜け道を探すものよ。それに、そんな高いものをホイホイ買い与えて……無駄遣いが多いわね、あなたたち」

「そうですかね。でも高いものを買うのは、誕生日かクリスマスだけですし……」

「だいたいね、甘やかすとわがままに育つのよ。あの子を見てたら、心配になっちゃうわ」

真希がゲームをしている姿をちらりと見ただけで、そこまで決めつけられるのも、正直どうかと思う。でも、めぐみは口をつぐんだ。

「……はい、ありがとうございます。いろいろと」

そう言って、深く頭を下げためぐみに、義母は「じゃあね、また来るわ」とあっさり言って、玄関のドアを開けて出て行った。

静かになった玄関で、めぐみは一人、立ち尽くしていた。

不満があるなら、頼らなければいい、とは思う。だが実際、仕事が忙しいときに真希を預けられる人は他にいない。めぐみの実家は遠方。学童は定員がいっぱいで、シッターを雇うほどの余裕はない。夫は「まあまあ」と言いながらどちらの味方もせず、あくまで中立を装っている。

「ありがたいけど……しんどいよなぁ」

心の中で小さくつぶやいたとき、リビングから真希の無邪気な声が聞こえた。

「ママ〜! アイス食べていい?」

「ダメ、もうすぐご飯の時間だよ」

キッチンに足を運びながら、思わず苦笑いがこぼれた。