母「あんたはどうするの?」

「里奈ちゃんの式はどうだった?」

絵実が雅俊と暮らしている家に、他県に住んでいる母の好美が遊びにきていた。雅俊は急な仕事が入ったため、ちょうど出かけていていない。最初は、義理の親が2人で暮らす家にたびたび来たがることを雅俊も嫌がるだろうと思っていたが、穏やかで人好きのする雅俊の性格も相まって絵実の両親との関係は良好だったし、雅俊もいつでも遊びに来てもらいなよと言ってくれていた。

「うん、すごく良かったよ。2人とも幸せそうだったし」

母がお土産に買ってきてくれたカステラを食べながら、絵実は答える。

「あんたはどうするの? もう式場くらいは決めたんでしょ?」

「……いや、うん。それはまだだけど」

絵実がそう答えると、好美の表情が険しくなった。

「結婚の挨拶をしたのってもう半年くらい前だったでしょ? そこから何も式については進展してないってこと?」

「……やっぱり色々と考えることが多くて」

好美はため息をつく。

「大事な行事ごとなんだからしっかりしないとダメじゃない……!」

絵実は今まで黙っていた胸の内をここで話すべきかどうか考えた末、変に期待を持たせてしまうのは良くないという結論に至った。

「……式ってさ、そんなに必要、かな?」

「……は?」

「別に私たちの式なんてお祝いしてもらうほどのことじゃないし。わざわざ皆に来てもらってまでする価値あるのかなって思ってるのよ……」

「バカなことを言わないでよ。結婚をするんだから式を挙げるってのは当たり前のことなの。それに皆、あなたたちの結婚を心からお祝いしてくれるわ。そういう人たちを呼べばいいのよ」

「それは分かってるんだけどさ。でも別にする必要はないかなって思ってる……。それに最近だとフォトウエディングっていうやり方もあって、知り合いには写真を送るって形でも良いかなって……」